ほ乳類専門家:安間繁樹(やすま しげき)
<足の甲は上面それとも下面?>
2004/02/01
安間 繁樹

ちょっと,仰向けに寝ころんでくれる。そして,両足の裏を完全に上側に向けてみてくれないかなあ。「えっ,出来ない?」。でも,そういうことを,して?させて?しまう人がいるんだなあ。BBECには。

僕は昨年8月末から6ヶ月の短期専門家としてBBECに参加している。今回はマレーシア・サバ大学に配属され,保管してある全哺乳類標本の同定(種類の判定)と,その分類整理が主な仕事だ。初めてボルネオに来たのが1985年。以来,この島の中で正味12年半JICAの仕事をさせてもらっている。哺乳類の研究と現地研究者の育成である。だから,どんな標本だって同定はそんなに難しくない。ただ,淡々と作業を進めれば良いだけだ。 

ところがね,標本室というのは窓一つない厚いコンクリートの大部屋なんだ。この熱帯圏にあって室温15度。「えっ,うらやましいって?」。じょうだんじゃない。3時間もいると腰が痛くなっちまうし,ちょくちょくある停電の時は,出口まで手探りでたどり着く始末だ。しかも,片手にネズミを掴んだままで。関学のワンゲルじゃないけれど,まったく遭難ものだよ。

ところで,動物の色や特徴を表すときに使う,英語でいう“upperparts”は,日本語では「上面」と訳す。「背面」でもよい。動物では,むしろ後者が一般的だ。同様に”underparts”は「下面」あるいは「腹面」である。足に関しては,甲の部分が上面,地面に触れる部分が下面。いや,そう単純には言い切れないのだなあ。試しに,動物になったつもりで,四つん這いになってごらん。その状態だと確かに足の甲は上面だし,足の平は下面だ。ところがね,”study skin”,日本語では「仮剥製」と呼ぶが,学術標本では,足はそろえて前足は前へ,後足は後ろへ平行に伸ばす。ちょうど人が腹這いに寝た形だ。さて,そうなると,足の上下が逆転してしまう。どちらが足の上(背)面であり下(腹)面なのか。これを考えると,僕は朝まで眠れなくなってしまう。そう言えば昔あったね。「地下鉄は,どこから潜って,どこから出てくるのか」。それを考えると眠れなくなってしまうってね。

でも,実のところ,そんなこと問題ではないのだ。足の甲を上面,足の平を下面と定義したならば,「仮剥製では足の平が上面,つまり背面にくる」と言えば良いのである。

ところが,さあ,ここからが本題だ。大学には約200体の乾燥標本があるが,すべてに共通の特徴がある。両脚が「がに股」,つまり「O脚」になっていて,しかも,腹面から見て,足の裏が見えているのである。「えっ?」。感ずることがあって,僕は,僕自身が昨年9月に作った2体を探した。それらは,腹這いに寝た形になっている。だが,200体の製作者は,半年間アメリカで標本作製の特訓を受けた女性技術者だ。

「ああ,40年近い研究生活は何だったのか」と,僕は一瞬,目の前が真っ暗になった。「アメリカではこうだったのか」。そして,僕は手許にある文献を探しまくった。しかし,結論は,やはり僕が正しかった。

後日,彼女に伝えたら,「あっ,そう?」で終わってしまった。標本作成では,肘から先,膝から先の骨は残し,あとは頭骨を含めて除去してしまうので,あまり考えないで作業すると,両足をねじることまで出来てしまうのだ。まあ,仕方ないとして,これからの標本は改めて欲しいなあ。

独身の君たちも気を付けろよ。Hitam Manis(ちょっぴり色黒で可愛い子)にうつつをぬかし,気が付いたら骨抜きになって足が反転していたなんて,目も当てられないよ。

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