サバ州生物多様性センターの設立と専門家活動紹介           
井口次郎(専門家:組織制度強化)

●生物多様性センターの設立

「州政府が生物多様センターの設立を承認、センター長のアブドゥル・ファタ氏ら6名の職員が任命される。」

 5月7日の朝、この報せがBBECフェーズ2事務局に届き、私たちはカウンターパート達とともに思わず歓声をあげました。サバ州生物多様性センター(以下「センター」)の設立は、BBECフェーズ2の目標である「サバ州における生物多様性保全システムづくり」に欠かすことができないからです。サバ州では2000年に生物多様性条例が制定され、サバ州生物多様性評議会(以下「評議会」)とセンターの設立が定められました。

評議会は、州主席大臣が議長を務め、自然環境に関係する州政府機関局長が一同に会する、州の生物資源の保全・利用についての高度な意思決定機関です。そしてセンターは、評議会決議の実施機関として、生物多様性情報の提供、生物資源にかかる研究開発のガイドラインづくり・ネットワーク化、生物資源保護システムづくり、伝統的知識の保全・利用、環境教育などを行うとされています。BBECフェーズ2では、この条例の枠組みをうまく使って、評議会とセンターの機能を強化し、BBECフェーズ1以来行ってきた活動をこの枠組みの中で維持発展させることを目指しています。

 他方、BBECフェーズ2開始時には、条例の制定から7年を経ながら、評議会とセンターはほとんど機能していませんでした。評議会は4ヶ月に一回の定期会合を行うことになっていますが、それまで会合が開かれたことはなく、センターも条例に定められた形で設立されませんでした。そうなった背景は多少複雑で本稿では詳しく述べませんが、複数の州政府機関をとりまとめるところの評議会とセンターが、そのはじまりからすでに複数機関の利害の対立という困難にぶつかっていたと見ることもできます。

 BBECフェーズ2開始後ようやく第一回の評議会会合が開かれ(昨年12月)、そこでセンターの設立についても話し合いがなされました。またJICAは、BBECフェーズ2の準備段階から評議会とセンターを軸とした生物多様性保全システムづくりと、そのための早期のセンター設立の必要性を、重ねてサバ州側に助言してきました。そうしたサバ州側・日本側双方の努力が実を結び、今回のセンター設立となりました。

●専門家活動とセンターの現状
 私は組織制度強化の専門家として、今年の1月から2年間の任に就いています。私の主要な仕事は、センターがサバ州の生物多様性保全のためにその本来の機能を発揮するように助けることです。センターの設立が遅れてしまえば、この任務を果たすのはそれだけ難しくなってきます。BBECフェーズ2開始から間もなくセンターが設立されて、私自身ほっと胸をなで下ろしているところです。

ダナムバレーのツリータワーでの筆者

 しかし、センターはまだ生まれたばかりです。職員はセンター長を入れてわずか6名、事務スペースも今のところ他機関の一角を間借りしています。センターが条例の通り機能するためには、今後人材・資機材・財政面での大幅な強化・拡大が必要となります。

たとえば、サバ州のお隣のサラワク州には、センターと同様の機能を当初意図して設立されたサラワク州生物多様性センターがありますが、設立から約10年を経て、その機能もより現状に適したものに変化し、今は独自のバイオテクノロジー関連施設と70名の職員を擁する機関となっています。センターがこれから歩む道のりの長さを感じます。

 これからセンターを強化していく上で、センター長に旧知のアブドゥル・ファタ氏が任命されたのは朗報でした。私がBBECで働くのは今回が初めてではなく、2001年にはBBECフェーズ1の計画立案のための諸調査に参加し、また2002年から2004年にはBBECフェーズ1環境啓発コンポーネントの専門家として科学技術室で働きました。

ファタ氏は、2001年当時科学技術室に所属し、BBECフェーズ1の計画立案ワークショップに活発に参加しました。フェーズ1開始時には、ファタ氏が科学技術室で共に働いてくれると期待したのですが、ちょうど彼はオーストラリアの博士課程で学ぶために休職してしまいました。

 最近になってファタ氏がサバ州に戻り、私もまた彼と連絡を取りはじめたところ、彼がセンター長に任命されました。ファタ氏は、センターの設立と強化がたいへん難しい仕事であることも十分理解した上で、意欲的にセンターの最初の仕事にとりくんでいます。

ラムサール登録申請の議事を執るファタ氏(左)

●センターをどう育てていくか
 現在、ファタ氏をはじめセンター職員達は、初仕事としてキナバタンガン河・セガマ河下流域のマングローブ林をラムサール条約に登録する作業に追われています。ラムサール条約登録の意義と現状については、本メールマガジン掲載の田島専門家の記事をご覧ください。

 ラムサール条約の登録には、様々な州政府機関の協力が必要です。今回の登録対象地では、マングローブ林や泥炭湿地林を保護林として森林局が管理しています。他方、そこには希少動物のスマトラサイ、ボルネオゾウ、テングザル、バンテンなどが生息しており、それらの保護を野生生物局が担当しています。また、対象地はサバ州最大の河川であるキナバタンガン川とセガマ川の河口にあることから、その保全には水利面の分析も必要で、これは灌漑排水局の担当です。漁業局からの情報は、マングローブ林が漁業資源保全のためにも重要であることを示すでしょう。そして、登録対象地の土地利用区画の正確な境界を確認するためには、土地調査局からの情報が不可欠です。

 センターは、これらの諸機関を招いたワークショップを開催して情報をとりまとめ、ラムサール条約事務局に提出する登録申請書を作成しています。様々な関係機関を調整し、サバ州の全体の利益のために生物多様性を保全・管理するセンターの初仕事として、また実際の活動を通じたセンター強化の第一歩として、うってつけの仕事でしょう。首尾良く今年の10月にラムサール条約登録が成れば、センターはサバ州でのラムサール条約のフォーカルポイントとして機能することが計画されています。更に、BBECフェーズ2で計画されているクロッカー山脈公園の管理やサバ州環境教育政策の実施においても今後センターは重要な役割を担っていきます。

 設立されたばかりのセンターに、かように重要な仕事を任せていくことに、一部のカウンターパートからは「泳げない子供をいきなり海に突き落とすようなものだ」という懸念も聞かれました。他方、だからこそ他の関係機関とJICAがセンターを支援していけば、センターは溺れることなくいずれ泳ぎの達人になるだろう、という期待もまた皆が抱いています。私自身、ファタ氏の指揮のもとセンターが一歩一歩前進し、皆の期待に応えていくものと信じています。

 今後ともBBECフェーズ2、そしてサバ州生物多様性センターに、応援をよろしくお願いいたします。

「サバ州政府におけるセンターの位置づけとその調整機能」に関するチャート図はこちら



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