ラムサール条約登録申請の裏舞台:サバ州閣議に出席して
長谷川基裕(専門家:チーフアドバイザー)

 初めての経験は、往々にして心に強い印象を刻みます。7月16日に開催されたサバ州閣議へ出席しラムサール登録申請の閣議承認を見とどけたことは、私にとって格別な想い出となりそうです。

サバ州生物多様性センターの設立及び強化と、キナバタンガン−セガマ・マングローブ林(森林保護区)のラムサール条約への登録(サバ州第1号のラムサール湿地登録)の意義と重要性については、前回のメルマガにて井口専門家及び田島専門家から説明がありました。これらの達成に向けた難関の1つが、サバ州の閣議承認を得ること、という認識のもとに私達はその日に向けて準備を進めてきました。

ラムサール登録予定地の様子(1)

BBEC IIの組織上の最高責任者(ダイレクター)は、サバ州政府職員のトップである官房長です。その官房長を通し、まずラムサール申請承認を閣議の議案として提出することへの承認を取り付け、続いて閣議説明文書の草稿を準備しました。私はマレー語が書けませんので、英語で準備した閣議説明書の草案に基づき、生物多様性センター及び天然資源庁(BBEC II事務局)にてマレー語の閣議文書として編集、仕上げが行われました。

サバ州の閣議は隔週で開催されます。当初、6月25日の閣議を目標に閣議文書を起案し準備していたのですが、ちょうどこの時期、マレーシア連邦政府の不安定な政局の影響を受け、閣議が2度にわたって中止となってしまいました。BBEC IIでは、今年10月、韓国にて開催予定のラムサール条約第10回締約国会議(COP 10)までの登録を目指しており、そのためには、申請書を7月中に連邦政府へ提出する必要があります。にもかかわらず、閣議文書起案から1ヵ月以上身動きのとれない状態が続き、「はたして10月のCOP 10に間に合うのか」と、閣議の度重なる延期に焦燥感を募らせておりました。

 

ラムサール条約登録予定地の様子(2)

そのような状況の中、7月15日に突然「翌16日に閣議開催」という連絡が入ってきたのです。届いた連絡の内容は、ラムサール申請は正式な議案ではないが、16日に討議される可能性があるため「BBEC IIチーフもスタンバイするように」、そして「閣議説明は森林局長が行う」というものでした。急展開に驚きつつ、ラムサール申請に関する討議は未定でしたが、閣議当日は大臣の質問対応に備え、山のような条約関連資料を抱えてサバ州合同庁舎(イノプライズ・ビル)16階にある閣議室へ向かいました。私にとっては、6階の官房長室より上階へ足を踏み入れるのも初めてのことで、緊張して臨みました。

生物多様性センター長のファタ氏と共に控室に入り、先に入室していた森林局長のサム氏と条約登録の意義や今後の展開等について最終確認を行いました。その折、森林局長から閣議に同席するよう初めて要請があり、本件討議となったところで閣議室に呼ばれました。

森林局長、生物多様性センター長と共に円卓に着くと、目の前に大臣が10人程並び、中央に首席大臣、一番端に官房長が座っているのが目に入りました。ものものしい雰囲気に少々気後れしましたが、森林局長が穏やかな中にも明快に、ラムサール登録候補のマングローブ林生態系及びラムサール条約について10分程解説しているうちに、気持ちが落ち着いてきたのでした。その後は質疑応答で、条約の意義や便益分配等についての質問が出ましたが、サバ州としてラムサール登録を申請することが決定されました。私の出番はあまりありませんでしたが、外国人ながら、BBEC IIのチーフ・アドバイザーという立場で出席していることや、昨年の10月からサバ州天然資源庁に派遣されていること等についての確認がありました。

ラムサール登録予定地内のバンテンの群

今回最も印象深く感じられたのは、BBEC IIの存在感と、その関係者への信頼という点です。森林局長は、閣議の席に着くなり、私を「我々のボスです」と冗談めかして出席閣僚に紹介してくれたのですが、その表現の中には、森林局としてBBEC IIの存在意義を認めていることが現われていたと感じます。存在意義をしっかりと認識されることは、プロジェクトとして重要なポイントです。

また、首席大臣からの「サバにはいつから住んでいるのか」と、私に対する直接の質問の中には、助言を受けるサバ州側の閣僚トップとして、私の立ち位置を見定めようとする意図を感じました。外国人でありながらサバ州に対してアドバイスをする人物の、専門性以外の要素として、この地に長期滞在し州の文化や習慣を知っている者かどうかを確かめているように感じられたのでした。

日本人専門家としては、理論的な面からサバ州とサバ州の自然環境が将来「どうあるべきか」をカウンターパートの方達と共に考えながら支援するのが基本的な姿勢です。しかし、人を動かすのは理屈だけではありません。やはり人間同士の基本的な信頼関係が非常に重要であり、相手からそのような信頼を得ない限り、プロジェクトの進捗はおぼつかないと思います。閣議に出席してみて、BBECフェーズ1から積み上げてきた存在感と信頼関係がサバ州に根付いてきていることを実感できたことが、私にとって大きな収穫であり大変な喜びでした。

今後の動きとして、7月中に申請書(RIS:ラムサール・シート)を連邦政府に提出することが、10月のCOP 10までの登録に向けたギリギリのタイミングとなります。連邦政府の審査にどれ程の時間を要するのか確認しているところですが、8月上旬にはスイスのラムサール条約事務局に新規登録を申請し、そこで最終的な審査を受けることになります。まだ道のりはありますが、今回のサバ州の条約登録候補地が国際的に価値ある自然環境であることは間違いありませんので、自信を持って申請手続きを進めて行きたいと思っております。是非とも今後の活動に期待を持って見守って頂きたく、宜しくお願い申し上げます。

以下のリンクをクリックして、本件に関する新聞報道をご覧ください。

THE STAR (19 July 2008)

THE BORNEO POST(18 July 2008)

New Sabah Times (18 July 2008)

Daily Express (18 July 2008)




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