サバ州で初めてのラムサール条約湿地登録に向けた取り組み
田島 誠(専門家:統合保護区管理))

 現在私たちは、BBECフェーズ2初期の主要な活動としてキナバタンガン河・セガマ河下流域のマングローブ林をラムサール条約に登録する取り組みを展開しています。

条約登録予定地は、マングローブ林(クラス5)と野生生物保護林(クラス7)からなるおよそ7万9千ヘクタールの広大な土地。この登録が成ると、サバ州で最初、マレーシア国内で最大のラムサールサイトが誕生することになります。

ラムサール登録予定地の様子

■「なぜラムサール?」―2つの意味
私たちがこの取り組みを最初に取り上げたのは、次の2つの面からこれを重要視しているからです。

(1)生物多様性センターの強化
 目的の一つは、BBECフェーズ2の目標であるサバ生物多様性センター(SBC、以下センター)を強化することにあります。

 このセンターはサバ生物多様性評議会(以下、評議会)と共に「サバ州生物多様性条例(2000年制定)」の中でその設置が義務づけられているのですが、様々な理由からこれまで本格的に機能してきませんでした。

 BBECフェーズ2の最大の目的と役割はこの二つを恒常的に機能させることにあります。ラムサール条約登録作業とそれに続く登録地の管理モニタリング計画の策定と実施を多くの関係機関を調整しつつ進める中で、センターの機能と能力が向上すると期待されています。

また、未だに不十分な州政府の評議会・センターに対するコミットメントを高めるためにもBBECフェーズ2の初期段階で目に見える成果を出すことが重要です。

 BBECフェーズ2ではこうした「協働の場」と「目に見える成果」の二つを提供しうる活動をツール(tool)と呼んでいますが、ラムサール条約登録はその好例と言えます。

 私たちは、その結果もたらされる「州政府のコミットメントの向上」と「センター自体の能力の強化」を通じてサバ生物多様性評議会・センターの地位の確立と持続的発展が望めるのだと考えています。

ラムサール条約登録予定地とサバ・ディベロップメント・コリドー

(2)下流から上流へ
 二つ目の目的は、上流地域も含めた両河川流域の保全をどうやって実現していくかという保全戦略そのものに関わっています。

 両河川流域は既に多くの団体が保全に関わっている上、保護区を管轄する省庁も多岐に亘ることから、一貫した保全計画とその策定の調整役を担う機関が必要とされています。

BBECフェーズ2では、こうした認識から一貫した保全計画の策定と実施が可能となる調整機関と体制作りをお手伝いしているのですが、実施を通じた能力強化の一環として「上中流域からの汚染の影響を最も被る下流域の保全を強化すること」を優先させるのが有効であるとの認識から、同地のラムサール条約登録を第一に行うことにしました。

 「水は流れれば清くなる」と昔の人は言ったものですが、現代の多くの河川はその逆です。下流域の保全を強化することは、自然と上中流域の汚染源や保全にも目が向きます。

登録後、管理モニタリング計画を作っていく過程で、上中流域の問題に目を向けて行かざるを得なくなるのは当然の成り行きです。つまり、下流域を守るためには上中流域の保全が不可欠で、この「下流からから上流」への動きを大きくしつつ、実際の調整と活動を通じて実行可能性の高い流域管理計画ができあがってくることを理想としています。

 こうした「(不十分な情報や環境下で)まず保全目標を定めて保護してしまう」というアプローチは、現在、自然保全分野で一般的になっている順応的管理
(adaptive management)の一類型と言えます。

ラムサール条約登録予定地内のバンテンの群

■これまでの経過と今後の予定
 これまでに、センターの呼びかけのもと、同地の保護区を管理している森林局が中心となり申請のための情報収集と申請書類を作成し、登録準備がほぼ完了して州閣議の了承を待つばかりとなりました。州内での合意形成と連邦政府(フォーカルポイント)の了承の取り付けに責任を持つのはセンターの役割になっています。

 今後は州閣議了承を取り付けた後、連邦政府のフォーカルポイントの審査を経て、今年10月のCOP10(第10回ラムサール条約締約国会議)での登録証の受理を目指しています。

 私たちは登録を通じて、センターを中心とした調整体制の社会的認知度が上がるだけでなく、関係者のやる気が喚起されること、サバ州の保全努力が国際的潮流と国際基準に沿ったものにより一歩近づくなどの効果があると考えています。



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