包括的で統合化された自然環境保全を確立するための国際協力=プログラム・アプローチ(援助の隠し味No.3)
2005/2/17
草野 孝久
1. プログラム・アプローチ

1.1. プログラム・アプローチとは?

 本技術協力案件はプロジェクトではなくプログラムと呼ばれます。プログラム・アプローチとは、経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)が1991年に提唱したもので、「途上国の国家開発重点課題に対しては、プロジェクト毎に行う技術協力のみでは援助効果に限界があるので、重点課題毎に長期的な展望を伴う協力方針を持ち、複数のプロジェクトを関連づけて総合的に取り組むことで援助効果と効率性をより高める」方式を指します。
 JICAは、DACのこの提言を受け、日本の技術協力が細かいスキームと予算項目に分かれていたものを、スキーム毎に実施される複数のプロジェクトを一つに束ねるパッケージ協力方式や、被援助国側の大きな産業セクター全体に抱える課題を整理して長期的な展望と開発方針を示し、その合意のもとにプロジェクト群を形成していくアンブレラ方式などを試行してきました。予算費目の細分化を解消し、被援助国別の重点課題毎のプログラムを策定し、プログラムに基づきプロジェクトの案件発掘・形成やプロジェクト間の連携・調整を行う方式に切り替えてきました。
 自然環境保全は課題が多岐にわたり、様々な行政機関や研究・教育機関が共同で取り組まなければ成果を出しにくい分野であるのでこのアプローチが特に必要です。

1.2. 多くの機関が協同で包括的に生物多様性保全に取り組む

 BBECはプログラム・アプローチによりマスタープランが作成され、研究・教育、州立公園管理、野生動物生息域管理、環境啓発の4つのコンポーネント(プロジェクト)を内包し、国立大学、州政府の7機関、10の郡役場、1NGOが共同で実施するプログラムとして開始されました。現在は更に2サバ州機関と1連邦機関が実施機関に加わっています。4つのコンポーネントには各々作業部会が設置され、プログラム運営委員会は州官房長を議長に、サバ大学長や連邦と州政府の高官、4コンポーネントの長で構成されています。

1.3. 日本からの投入
 JICAからはチーフアドバイザーと業務調整員のほか、5名の長期専門家、年間5名程度の短期専門家が派遣されています。カウンターパート(CP)研修は年間5名程度が受け入れられています。また、BBECプログラムはマレーシア全域から参加者を募る集団研修「自然環境保全コース」と連携しており、毎年5〜7名のCP達がそのコースにも受け入れられています。青年海外協力隊員が3名派遣されており、今後地方での環境教育や村落開発の展開とともに派遣を増やしていく計画です。機材供与や施設整備を必要に応じ行っています。

2. プログラムの運営管理と相乗効果の発現メカニズム
2.1. 総合的な保全のために実施機関共同のモニタリング体制の確立
 これだけ大型の協力をしっかりとモニタリングして行くためにも、マ側の主体性と協力終了後の持続性を確保するためにも、プロジェクト・サイクル・マネージメント(PCM)の本格的活用が案件形成時点から重視されています。コンポーネント毎にプロジェクト・デザイン・マトリックス(PDM)と運用計画表(PO)、年間活動計画(APO)、更に高次の成果や達成目標を整理したプログラム・デザイン・マトリックス(PgDM)を作成し、これらを活用してモニタリングしています。
 2年間の試行を経た後、現在は@各コンポーネントの主務機関CPと専門家によるレビュー、A各コンポーネントの全実施機関代表による作業部会、Bコンポーネント長による全体会議、C事務局による総括と進捗報告書取りまとめ、Dプログラム運営委員会による報告書内容の確認と承認の順で行ってきました。@〜Bは四半期に1回、CDは半年に1回行います。


2.2. 総合的な保全のための関係機関の能力の統合化

 BBECを通じて他機関の活動や人材についてお互いに周知するネットワークが生まれ、セミナーやワークショップ、野外調査、展示会などが複数コンポーネントの共催・連携調整で行われてきました。BBEC機関の職員のみでなく、広くサバ州、マレーシアあるいは外国の研究者や保全実務者に必要な情報を提供するとともに、人的なネットワーク化も進みました。現在は、人材、施設、情報を如何に共有・統合しサバ州の生物多様性保全を効率的かつ効果的に進めるべきかについて参加型の調査研究を行っています。

2.3. 本プログラムの計画・進捗・成果の一般市民への周知

 本プログラムに関する報道件数は主に地元新聞の他、TV、ラジオ、雑誌類を含めて500件に達しようとしております。ホームページは2003年7月以来のカウントで英語版が14,600件、日本語版は46,800件のアクセスを記録しました。1日あたり100〜150人 がBBECプログラムのホームページを見ていることになります。また、32冊のBBEC出版物を発刊し、現在更に10冊ほどの教則本やガイドブック、報告書が準備されています。こうした広報によりBBECプログラムの知名度や内容についての理解は、サバ州政府官僚や政治家、民間のなかで定着しました。そのことはCP達の誇りともなり、やる気を躍起するとともに、各界からの協力を仰ぎやすくしています。


3. 包括的で統合化した生物多様性保全の意味

 開発と環境保全は表裏一体の関係にあり、開発の流れを環境との調和の観点からしっかりと管理していかなければなりません。環境の保全を考慮しない開発は、生活環境を悪化させるだけでなく、人類が利用できる自然資源を日々減少させつつあり、人類全体の今後の発展性や持続可能性を狭めていきます。ボルネオの自然を守ることの意義は、単に生物多様性という地球の遺産を守ることだけではなく、自然資源に依存した暮らしを送る地域社会住民をも保護し、州全体が自然との共生を実現させた健全な発展を確保することでもあります。そのためにも、政府の各機関だけでなく、NGOも民間企業も巻き込んだ統合化を進め、より包括的な行政とした方が(いや、そうしなければ実現しない)効果を出せる課題というものが環境だと思います。
 3年間このプログラムの運営管理をアドバイスしてきて感じることは、環境とは如何に人間社会自身の問題であるかということです。生物多様性の保全とは、単に野生の動植物と向き合うことではなく、伝統的に自然資源を利用してきた人々と向き合うことです。そしてそれ以上に、都会に暮らし更なる開発を求め自然資源を搾取している人たち、政治家たち、無関心を決め込んでいる人たち、そして何が起きているかを知らない多くの人たちと向き合うことであるとつくづく感じています。

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