野生生物の生息域を保全するための方策を開発する

2004.12
草野孝久
 サバ州の野生生物の生息域は急速に減少したが、希少で生態系を代表する重要な生物種の多くの個体は保護区に指定されていない地域に生息している。このためBBEC生息域管理コンポーネントでは、サバ州第2の河川であるセガマ河下流域で2つの野生生物保護区間に残存し大型動物の回廊的存在を果たしている州有地をモデル・サイトとし、地域住民が主体的に生態系を保護しながら賢く使う方式を取り入れた有効な方策の開発を目指している。

 野生生物保護はサバ州野生生物局の管轄であるが、土地管理局と森林局、所轄の郡役場との連携が不可欠である。これらの機関に、サバ大学、公園局、環境保護局、サバ財団が協力してこのプロジェクトを実施している。

1. 重要種を選定しモニタリングする

 生息域保護のためには、その生態系を代表し重要な役割を果たし絶滅の危機に瀕している生物種を選びモニタリングしながら保護していく。重要種としてゾウ、オランウータン、テングサル、テンバダウ(野生牛)の4種が一旦選ばれた。しかし、対象地区には3集落300人以上が河川や川辺林の自然資源を利用していることから、住民生活を排除した完全な保護区とすることはできず、村落住民の伝統的な自然資源利用を認めた野生生物保全区とする方針とした。住民の生活と密接に関わりのあるオニテナガエビ、シレナシジミ、樹木などを中心に上記のほ乳類と併せてモニタリングしながら生息域の劣化を防ぐと言う方針とした。今年末には短期専門家による水産資源の調査を行う。

 サバ大学他と合同で科学遠征調査を実施し、対象地域の生物インベントリーほか基礎情報を収集した。哺乳類及び鳥類チェックリストを作成し、レンジャーによる哺乳類種と鳥類の試験モニタリングを実施し、村人との協力体制の構築とともに村人達を訓練している。

2. 新しい保護区設置を申請する

 当初計画では、保護区設置の申請は最後の年に行う予定であった。しかし、1994年には約4万haあったとされる州有地が3,800haほどに減少し、都市部の資本家による農園開発申請や村人の伝統的土地使用権を悪用した土地ころがし、そして組織的な盗伐が耐えないため、プロジェクト開始1年あまりで野生生物保全区の設置を申請した。約1年が経過し、担当のサバ州自然資源庁は産業界の意見が十分に出揃っていないことや情報の不足を指摘し、閣議に附されるには至っていない。しかし、関係するサバ州政府機関に野生生物局がセガマ河下流域に保護区化申請を行ったことを周知し理解を得たので、他局の所轄による土地開発計画は断念された。また、土地管理局の協力で該当地域内での全ての土地割当区分作業を停止し、新たな土地使用申請は全て不受理扱いとされている。設置対象地域の地域社会調査結果やエコツアー開発計画の進捗報告書を天然資源長官に提出し、設置承認促進を図っている。

 ここから先は政治的な判断も伴うので技術協力では対応しきれない局面に入ったが、申請が閣議に附されるようできる限りの働きかけを行っている。自然資源長官、該当地域の選挙区選出の州議員など主立った政治家や高官への説明会、村人や隣接するプランテーションのマネージャーへの説明会などを繰り返している。また、湿原生態系が主である提案保全地域の国際的保全地位を獲得するため、ラムサール条約への登録についての説明会も開催した。

3. セガマ河下流域野生生物保全区管理計画を策定する

 セガマ河下流域が野生生物保全国指定されるのに備えて管理計画の策定作業を進めている。

 村落の社会調査、カラー航空写真撮影による生息域区分図作成のデータ収集、村人や近隣プランテーションのマネージャーたちとの対話、政府関係機関や観光業界などを含めた検討会を行い、総合的な地域保全計画の策定作業を進めている。この9月には全関係者が参集したワークショップを開催し、保全計画に総意を得るために必要な事項を洗い出す。

4. 保全区管理計画案を試行し組織体制を開発し、人材を育成する

 保全計画には実効性のある活動計画を盛り込む必要がある。計画策定の作業として幾つかのパイロット事業を行っている。村人主体のエコツアー開発もその一つである。保全を手段とした村落社会発展のポテンシャルがあることを村落住民自身と、政府や民間の関係者にも理解してもらうことが重要である。このため、ダガット村の若者を中心としたエコツアー実行委員会を組織し、エコツアー資源である野生生物の理解と保全、ホームスティの開発と観光客受け入れの基本的知識の訓練などを行ってきた。青年海外協力隊員、日本からの学生グループや秘境ツアー同好会などの協力を得て試験エコツアーを実施してきた。試行により、実際に現金収入が入ることが確認でき村人の意欲も増し、ガイドやホームスティの質など改善すべき点も明らかになって行く。

 州政府実施機関の職員や村落住民の人材育成としては、重要な種のモニタリングのために必要な教育及び研修プログラム開発、環境教育・普及啓発資料作成能力の向上、航空写真分析や植生図・生息域区分図作成能力の向上も同時に行って行く。こうして試行されてきた内容や今後の計画を取りまとめ3国際ワークショップで発表してきた。国際的な専門家たちの意見も得て管理計画案の見直しを行って行く。

5. セガマ河下流域総合管理計画を実施する

 協力最終年度までには保護区化が承認されることを想定し、上記した試行を通じて管理計画の実行体制を確立する。セガマ河下流域野生生物保全区の設置後は、管理計画を実行し不具合が発見されば必要な修正を行って協力を完了する計画である。

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