生物多様性保全に貢献する研究・教育手法を構築する

2004/9/28
草野 孝久
(1) 研究教育コンポーネント

 このコンポーネントはサバ大学熱帯生物学・保全学研究所(ITBC)を主務機関とし、サバ州の森林局、野生生物局、公園局、サバ財団の調査研究部門で構成されている。その他WWFやDarwin Initiative, Global Diversity Fundなどとの連携による活動も実施している。

 生物多様性を保全するためには、生物多様性を十分に理解する必要がある。そのためには、サバ州に於ける研究と専門家教育の体制を強化しなければならない。研究教育コンポーネントでは、@関連組織間の連携強化Aサバ大学の研究・教育施設の整備B分類学および保全生物学の研究者や専門家の要請C生物多様性と生態系についての研究促進Dリファレンス機能の向上とネットワーク化の5つを成果目標として活動している。

(2) サバ州内の調査研究機関間の連携を強化し発展させる

 1995年に設置されたサバ大学のITBCが、これまでサバ州の生物学的な調査研究を行ってきた他の実施機関との連携を強化しながら、州内に於ける生物多様性とその保全のための研究と教育体制を発展させることを目標に様々な活動が行われている。

 参画機関に在籍する研究者の研究テーマ等をカタログ化し、BBEC活動下での分類学、保全生物学の研究課題整理を行い、標本採集と保管に関するプロトコルを決定し、実施機関間の双方向コミュニケーションが構築された。野外調査や研究発表会、各種研修、セミナー、ワークショップなどを各機関の参加型で進め、情報や人材を共有する体制が整ってきた。各実施機関がJICAの支援を受けず独自に実施する調査やワークショップにもBBECの実施機関同士が参加し合う慣行が定着した。ITBCでは、内外の講師による研究進捗報告を隔週で実施するようになり、過去2年間の発表内容を取りまとめて出版した。

(3) サバ大学の研究・教育施設を整備し、他の実施機関の利用を促進する

 新設されたサバ大学のITBCを国際的なレベルの生物学研究所の施設に整備し、他のサバ州の機関も利用できるようにすることを目標に活動が行われてきた。サバ大学による研究所施設の建設とDNAラボや生化学分析ラボ、環境教育用ギャラリーなど主要設備や機材の設置とともに、JICAからはコンパクター式標本収蔵棚と標本管理データベース、分類学研究用電子顕微鏡、GIS機器、教本と文献ほかの研究教育用機材がITBCに供与された。国際的な水準の研究施設が整備され、ITBCの技官に対する操作方法やメンテナンスの訓練も終了した。

 これら設備・機材を活用した研究について、全実施機関からの参加を募って、日本人専門家による標本インベントリー作成とデータベースの運用、DNA分析、電子顕微鏡の使用、GIS技術などについての講習会、ワークショップを繰り返してきた。データベース情報やGIS地図は書物やCDで外部に提供され、DNAラボ、電顕、画像解析装置、GISなどは他の機関の研究者も利用している。これらを活用したより高度の研究を増やしていくことが今後の課題である。

(4) 分類学および保全生物学の研究者や専門家を養成する

 野外調査でのインベントリーと標本採集を実学として学ぶ「インベントリーと標本採集研修コース」、昆虫の代表的なグループの形態の特徴や生活史、フィールド調査法、生物多様性研究におけるコンパクターおよび電子顕微鏡の活用などを学ぶ「一般昆虫学コース」、ネイチャーツーリズムにおける昆虫の重要性や有効性を学ぶ「昆虫ツーリズム」、保全生物学の基礎となる生態学および保全に必要な社会経済の知識を学ぶ「保全生物学コース」などを逐次開講した。これらは毎年内容を改善しながら、サバ州内の州政府機関および観光業界などからの受講者を得て実施して行く。

 「DNAラボ活用講習会」を1?3年目に集中的に計5回実施した。DNA抽出から塩基配列の決定方法、系統論およびソフトウェアの使用方法などDNAデータを用いた生物の類縁性を解析するために必要な分子生物学の基本的な知識と技術をITBCや森林研究所などの研究者に移転した。

 生物標本管理に必要なデータベースとは何か、それを維持管理していくことはどういうことかを理解することを目的に、「標本管理データベース・ワークショップ」を毎年実施している。これにはサバ大学の関連学部と森林研究所サバ州公園局研究部門などからの参加者を得ている。その他、「効果的な自然・環境教育の展示物の作成方法ワークショップ」などを適宜実施している。協力開始以来2年半で10以上の講習会・トレーニングコース・ワークショップを開催し、延べ250名ほどが受講している。

 サバの甲虫類の多様性および生態学的研究、シロアリ類の分類学、化学分析法、博物館の展示手法、両生類の分類、GISの生物学への応用などを学ぶため4名が日本での研修を受けた。また、ITBCの昆虫学専門の2名の講師が文科省の奨学金を受け、鹿児島大学と九州大学の博士課程に入学した。

 上記各種研修コースのテキストのほか、レンジャーや学生、ネイチャーガイド向けのほ乳類、昆虫や植物のフィールドガイドが出版され、BBECプログラム参加機関のほか、州政府や民間尾関係者に提供されている。

 ITBCのスタッフは協力開始当初より10名程度増えて35名ほどの態勢になっている。

(5) 生物多様性と生態系についての研究を進め、知識を深める

 これまでに、キナバタンガン野生生物サンクチュアリー候補地、クロッカー山脈公園キマニス川上流部、同公園メララップ地区、セガマ河下流域野生生物保全区候補地の4カ所にて科学遠征調査を実施した。それぞれの調査はBBEC参加機関の合同調査として実施され、サバ州内はもとよりマレーシア半島部、日本や欧米からの研究者が毎回50?80名参加している。

 これら合同科学遠征調査で収集された標本は、ITBCを中心に実施機関に登録され、分類作業が進めばデータベースに記載され、カタログ化される。調査結果は、調査実施した村落やコタキナバル市内での展示会、セミナーの形で一般市民に公開するとともに、マレー語や英文の出版物として研究者や行政担当者らに配布される。キナバタンガン調査とクロッカー山脈キマニス川上流部調査についてはモノグラフを纏め出版され、サバ州内の書店で市販されている。科学遠征調査のモノグラフ2冊に掲載された論文は38本である。

 その他の研究成果物としてITBC収蔵標本の哺乳類、チョウ類、サトイモ科のカタログを作成し、CD付きの本として出版した。サバ州の4機関(サバ森林局、サバ公園局、サバ州立博物館とITBC)に収蔵されている動植物の標本の現状とデータシェアリングとネットワーク化のためのワークショップ報告とを記載した「サバ州における生物標本管理」、およびITBCで実施してきた隔週セミナーで行った発表内容を取りまとめたものも出版した。

 研究成果の国際的な場での発表も積極的に行っている。2002年のつくば市に於けるGBIF(地球生物多様性情報ファシリティ)/GTI(地球分類学イニシアティブ)共催の国際シンポジウム、ブルネイ国においてマングローブ生態系管理国際ワークショップにて、BBEC参加機関から合計7名が出席し、それぞれの論文を発表した。またBBECでは毎年国際セミナーを開催し、プログラム参加者の活動や研究成果を広く公開している。2002年12月にはサバ大学にて「両生類国際会議」を開催し、ボルネオにおける両生類の研究発表や研究会の発足および若手研究者の育成などの課題について意見交換を行った。

 これまで国際学会において発表された論文総数は11本、隔週セミナーにおける発表数は30本になる。

(6) 実施機関のリファレンス機能を向上させ、ネットワーク化を進める

 デジタル・データベースの導入とともに数々のワークショップを行い、動植物の目ごとに異なった標本管理が行われていたのを統一し、標本の特徴(乾燥標本やアルコール標本等)を踏まえたフィールドルールを決定した。ITBCについてはすべてのグループについての標本管理システムの標準化が確立された。哺乳類やチョウのアゲハチョウ科の標本データの入力が進み、カタログが作成され出版した。データベース(Musebase)の導入が完了し、ユーザートレーニングも終了した。これまでに植物と昆虫、哺乳類とチョウ類のデータ約12,000点が入力された。

 画像や鳴き声などを収録するマルチメディアデータバンクが構築され、入力が開始された。画像や鳴き声も含めた分類学や保全に関する情報をインターネットで提供するためのセミナーを行い作業が開始された。

 ITBCは生物多様性とその保全の必要性について一般にも環境教育する博物館的な機能を持った研究所である。そのため、施設内に常設のギャラリーを整備中である。講習会やワークショップを毎年行い、効果的な一般人向けの展示についての技術移転も進めている。これまで、サバ大学の卒業式や訪問客向けの特別展示を行ってきた。国際両生爬虫類セミナーの際には両性類の面白さや重要性を一般の人々に知らせるための特設展示会「カエル博物館」を実施した。これらの展示物は、BBECプログラムの他のコンポーネントの行事にも貸し出されている。

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