「ゲームで本音!?:村長たちのワークショップ」

2004/07/08
田儀耕司
「えっ、開発業者の役?」

サバ州公園局のルディさんの目が点になったのは、政策決定者を対象としたワークショップの準備会合で、参加者を対象に実施するロールプレイングゲームでの彼の役割を聞いた時でした。政策決定者は、村レベルから州政府高官、そして政治家まで広い範囲に対象者がいますが、第1回目はクロッカー山脈公園周辺の村長と村の開発委員長に焦点を当ててのワークショップ開催です。

 これまであまり目立った活動をしていなかった政策決定者を対象としたタスクフォースのリーダーのファティマさんから、第1回ワークショップを6月に実施したいと相談を受けた時、「じっと座っているだけのワークショップはつまらないから、参加者にも話す機会を持たせたらどうだろう」という提案をしました。こちらでは、ワークショップといっても、主催者側が延々と話をして終わることが多いため、参加者の意見を聴ける機会がほとんどありませんし、参加者の自然環境保全に対する認識を知ることもなかなかできません。そこで、参加者にテーマを与え、ディスカッションをさせてはどうだろうということになりました。このような場を円滑に進めるためにはファシリテーターが必要です。そこで、Rainforest Interpretation Centreという施設で主に教師や生徒を対象にインタープリテーションを行っているベルナデッテさんに白羽の矢が立ちました。

 サバ州公園局を含めての準備会合の場で、ベルナデッテさんは約25名の参加者と運営側の出席者を8つに分けて行うロールプレイング・ゲームを提唱しました。

 ゲームは、ワークショップの会場でもあるクロッカー山脈公園にリゾート開発の計画が持ち上がり、事業を行う開発業者、事業に賛成の村落部及び都市部の住民、伐採業者、事業に反対のNGO、村落部及び都市部の住民、政府の役人にグループ分け、議論を行うというものです。ベルナデッテさんは、「どうせやるなら、全く逆の役を演じる方が他の立場も分って良い」とし、公園局の人たちは開発業者を演じることになったのです。

 ロールプレイングゲームを実施するにあたり、色々不安はありました。各村落の代表にあたる参加者たちが議論の際に過熱し、感情的になり過ぎないかとか、逆に子供っぽいことをやりたくないと不参加を決め込まないかとか。運営側も、「ゲームなんか、誰も真面目にやらないんじゃないか」というような声も聞こえてきていました。

 会議当日、約30分遅れて参加者たちが到着しました。ニコニコと親しみやすい表情を見せる人もいれば、険しい顔でにこりともしない人もいます。

昼食後、公園局のルディさんの協力により、8つのグループが発表されました。発表者の一人として来てもらった環境保全局のスーザンさんは、事業賛成側の村人のグループに入り、「いつもと違う役割で楽しみだねぇ。」と話しています。ゲームは、はじめに各グループが事業に賛成、反対の意見とその理由を述べます。その後、他グループへの反論を行い、最後に政策決定者のグループが事業の実施・中止を決めるというものです。なお、各段階の間に、他のグループへの圧力、交渉を行っても良いとしています。

いざ、ゲームが始まると、参加者たちは予想していた以上に真面目に取り組んでくれました。個性の強い参加者の中でも、とりわけNGOグループの発表をした村長は個性的でした。行政当局に対し、「外資系開発業者に土地を与えるようなことをするならば、次回の選挙ではお前たちには投票しない」と圧力をかけたり、「新しくリゾートホテルを作るくらいなら、まずはコタキナバル市内のホテルを満杯にしてみろ」と言ったり。

色々な意見を聴かされた役人役の村人たちは、「とても自分たちだけでは決めきれない。関係各省の担当者とも相談してみる」と、まるで本当の行政官のような発言で締めくくりました。

ゲームの後、参加者の中から、バンコクの地盤沈下の問題を例に挙げ、水源涵養の必要性を説く人が出るなど、クロッカー山脈公園の保全が必要と考える人が参加者の9割近くにもなりました。

参加者たちが皆笑顔で帰った後、科学技術室長のモクタールさんは、「何よりも、彼らの保全意識が意外に高いことに驚かされたよ」と話してくれました。

今回のワークショップではかなり様々なことを学びました。ベルナデッテさんが実施したロールプレイング・ゲームが参加者の考えを聴くきっかけになること、参加者に他の立場の人の考えを学んでもらうこと、村落の代表者の方たちの中には保全に前向きな人もかなりいるということ、そしてカウンターパート機関の人たちの間にある「村落の人たち=低い保全意識」という認識を改めてもらう機会になったこと等です。

政策決定者タスクフォースのリーダーのファティマさんは、次回のワークショップを8月末頃に行いたいと考えています。次回ワークショップでは、ゲームを通じて拾える参加者の意見をどのようにクロッカー山脈公園の保全につなげていくのかを考えていかなくてはなりません。そのためには、環境啓発コンポーネントが中心となってワークショップを企画するのではなく、公園管理コンポーネントの目標とも照らし合わせた共同開催イベントの実施が次回に向けた課題です。


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