ティドン族の若者30人スカオ村で保全を学ぶ
2003.10.
青年海外協力隊隊員(環境教育):山本純栄

BBECメルマガ30号でお伝えしたセガマ河下流域ティドン族の村落社会調査の結果は、近年のテナガエビ漁獲量の減少に伴って現金収入が減っていること、しかし子供たちには十分な教育を受けさせたいという想い、そして自分達の村を発展させたいという村人の強い願いを反映したものになりました。そして、今回、BBECの野生生物生息域管理コンポーネントの活動として、ティドン族の若者30人に具体的な保全を知ってもらうため、フランスの小さなNGOウータンと野生生物局が実施しているオランウータン保全プロジェクト(K.O.C.P.) によって村が一体となって保全を手段として活性化してきいるキナバタン河河畔のスカウ村に2泊3日で勉強してもらいに行くことになりました。今回、野生生物局のソフィアン課長、ヘルマンレンジャー、ジニア係、坪内専門家とともに彼らに同行し、たった3日間で彼らがおおきく変わっていく現場にいあわせることができました。

サバ州でテングザルが観察できる場所として有名なスカウ村も10年前までは川で漁をして生計を立てるセガマ河河畔のティドン族の村とほとんど同じ状態でした。スカウという名前は知っていても、そこで村人がどんな活動を行っているかなど全く知らないティドン族の若者達は何がなんだか解らず、緊張した表情で集まってきました。


<訳のわからないまま救命胴衣を着てボートに乗ったティドンの若者たち>

スカウ村に着くとまず、河の民(オランスンガイ)の伝統的な楽器であるゴーンの演奏で歓迎を受け、続いてホームステイでお世話になる方(フォスターペアレント:養父母と呼ばれています)と一緒にそれぞれの家へとキツネにつままれたような表情で向かいました。夕方は、テングザルをはじめブタオザル、ボルネオアジアゾウ、サイチョウ、ヘビウなど沢山の野生動物が観察できるスカオ村ボート協会の会員が操縦するボートでメナンゴル・リバークルーズに参加しました。今回のリバークルーズの目的は生活の中で野生動物といつも関わっているティドン族の若者に野生動物ではなく、それを見に来ている外国人観光客を見てもらうことにありました。最初、いつもは自分達で扱っているボートに着た事の無い救命胴衣を着せられ、観光客として参加することに目をくるくる回していました。自分達の村と殆ど変わらない景色や動物の中で、唯一自分達の持っていないものである外国人観光客の姿を驚いたように見つめていました。

 2日目、村を発展させるための様々な取り組み、オランウータン保全プロジェクト、自分達の土地、作物をゾウ、オランウータンなど野生動物の被害から守るため24時間体制で監視するWCU(Wildlife Control Unit)の活動、野生動物の密猟等を取締る名誉野生動物監督官活動、村人が自分の家をほんの少しだけ改良して観光客に宿泊してもらうホームステイ、さらに村の経済に寄与しないの弊害となる資本家が運営する民間のリゾートを実際に見て話を聞いていくうちに、表情の硬かった若者達から次第に硬さがとれてとれていきました。そして、キナバタンガン野生生物保護区でK.O.C.P.が実施しているオランウータン調査とそこで村の人たちが主体となってはじめた野生のオランウータンウォッチングによる村の経済への貢献を勉強する頃には最初の驚きから、「俺たちもこんなことやりたいな」という表情が見えるようになりました。初日、一人だけメモを取り始めていましたが、二日目にはほとんど全員が近くのお店でノートとボールペンを買ってきて、メモを取り、質問したりと、時間がどんどん足らなくなっていきました。


<熱心にオランウータン保全調査について質問するようになった若者たち>

夜にはグループごとに2日間学んだことのまとめを発表をしてもらいました。ほとんどの参加者が小学校も出ておらず、大勢の人前でマイクに向かって話す経験などしたことのない発表者の中には、一生懸命用意した原稿と全く違うことを口走ってしまう人もいました。でも、全員が“スカウ村のような活動を自分達の村でも行いたい”という熱意の発表となりました。会の締めくくりとして披露されたスカウ村の女性による伝統舞踊は、5名の若い女性へ強い影響を与え、「私たちの村で失ってしまった伝統舞踊を復活させるため協力してほしい」とソフィアン課長に熱心に訴えていました。そして、司会者が「皆さんの村の周辺に広がっている森を保護区とすることに賛成ですか?」と問い合わせたとき、間をおかずに「賛成」という沢山の声が聞こえました。


<戸惑いながらも壇上に上がり、学んだことについて発表するグループ>

 2泊3日の視察を終え、自分達の村に戻った若者達は、やる気に満ちあふれ、前回の村落社会調査で会った時とは別人のようでした。自分達の村にあった伝統舞踊についてお年寄りの話を熱心に聞いて回っている女性、自分達の場所で何が出来るを考え、すっかりガイドになった気分で案内してくれる人達まで現れました。

 彼らが催してくれたツアーは、村の上流域へのリバークルーズ、森の由来、そこに植わっている果樹の由来、川の由来、オランウータンが食べたヤシの跡、寝床、蛍の集まる木、投網エビ漁の仕方、カニクイザルに取られないエビ籠の隠し方、熟したニッパヤシの実の見分け方、ニッパヤシの林での貝の見つけ方、採ってきたエビ・貝料理、デザートにニッパヤシの実がその日の夕食を飾りました。

 このように彼らの普段の生活がそのまま立派な観光になるばかりだけではなく、環境教育において重要な要素とされる視覚・嗅覚・聴覚・味覚・触覚の5感を使ったものとなっていました。さらに、エビを取り尽くしてしまう引き網漁は村の掟として禁止されていること、エビを取るための仕掛け(ブブー)を作るためのラタンは棘の抜け落ちた古いものから取り、若いのは取らないことなど村の生活の中に保全というものがあることを教えられました。持続可能な手法が生活に溶け込んでいる彼らこそが立派な、そして真のインタープリター(自然と人の間に立ち、自然からのメッセージを人に伝える役割を果たす人)で、環境教育者であることを私自身が学びました。

 今回の研修が彼らが真の意味で環境教育者として大いに飛躍してもらうきっかけとなり、村が環境教育の村として発展していけることを願っています。

(了)

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