生物の遺伝的多様性を調べる
高野 温子
開発による生息域の減少や環境の悪化に伴って,絶滅の危機に瀕している生き物をどのように守っていくのか,この問題はボルネオ島に限らず世界の大きな課題になっています.これ以上,彼らの住む環境を損なわずにいられれば,問題は少ないのですが,やむを得ず開発を行って,彼らの住む環境を一部奪い,結果として個体数を減らしてしまう場合があります.数が減ってしまえば,それだけ絶滅に近づいていくわけですが,そういうときに私達が彼らを絶滅から少しでも遠ざけるために出来ることはないのでしょうか?

1つの方法として,対象となる生物のもつ遺伝的多様性を調べ,それをできるだけ残すような形で保全策あるいは開発計画を立てるやり方があります.個体の数そのものも重要なのですが,いくら多くの個体が残っていても,それらがみな親類や親子関係にあったらどうでしょうか.いずれは,近親交配による弊害が生じて,将来絶滅してしまうかもしれません.一般的には,同じ個体数の集団であれば,遺伝的に多様である方が絶滅の危険性は低くなることが期待されます.生物多様性の保全のためには,遺伝的多様性の解析も重要なのです.しかし,このような解析には技術と高価な機械,試薬など多額の費用が必要になるので,実際には限られた生物にのみこういった解析が行われています.

因みに、協力開始当初、サバ大学の熱帯生物学・保全研究所からDNA分析への協力を求められたJICAは機材が高価であるため的確に使っていけるか不安であると供与を躊躇していたところ、所長が大学当局と掛け合い自前でラボ機器一式を購入してしまいました。このため、JICAからはこれを使って研究ができるように人材を育成し、組織体制を整えるための専門家が派遣されているわけです。


実験の指導をする舘専門家(中央)と,コースの参加者たち

前置きが長くなりましたが,3ヶ月に1度,1週間の予定で開催しているDNAコースの2回目が先週終わりました.1回目はハエやシロアリ,コケや木など,それぞれの材料からDNAを抽出し,ある特定の遺伝子領域を増やすPCR(Polymerase Chain Reaction)実験まで指導しました.2回目にあたる今回は,DNAシークエンサーと呼ばれる機械を使って,前回PCR法で増やした遺伝子領域のDNA塩基配列を決定するところまで指導しました.

初回と違って今回は学期中ということもあり,参加者が全員揃うことはありませんでした.結局,参加者は大学の講師等3人,自分の研究材料のDNA塩基配列を決定できたのは2人でしたが,実験が成功したときには,2人ともほっとしていました.

3回目,4回目ではいよいよ,自分の研究目的を達成するために,DNA塩基配列をどうやって解析するのかという方法の指導を行う予定です.DNA塩基配列データを用いれば,自分の知りたいことがわかる(かもしれない.こればかりはやってみないとわからないところがあります),保全にも役に立つということを彼女たちが正しく理解し,なんとか研究費を自分達で調達して,今回習った技術を用いた研究を行う気になってくれるようなコースにできればと思います.


実習を指導する高野さん(第1回目の講習会)

 

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