薩長同盟なる:生物標本データの共有化へ
2003年4月1日
橋本 佳明
2月下旬の国際会議の3日目に生物多様性情報共有のためのデータベース・ネットワークづくりのワークショップを再度開催すると決めてから、ひと月がたちました。


この間に、先行モデルとしてITBC(サバ大学熱帯生物学・保全研究所)に、まずデータベースを導入することを決め、3月13-14日に、データベース構築の実施計画に関するワークショップをITBCスタッフと行いました。さらに、26日-28日には、ITBC,SPM(サバ州公園局博物館)、FRC(サバ州森林局)の3機関で、データ共有を可能にするネットワークの仕組み作りについてのワークショップをITBCで開催しました。このワークショップの最終日、28日に3機関の長との会議を持ち、ついに、この3機関でデータベース・ネットワークを立ち上げることが合意されたのです。日本の歴史物風にいえば、「薩長同盟」なるというところでしょうか。


この会議は、本当に、はらはらどきどきものでした。まず、3機関の長が出席するかどうか、直前まで分かりませんでした。会議の呼びかけは、国際会議終了直後から行っていましたが、色よい反応があったかと思えば、やっぱり参加したくないと言うメールが直前に届いたりで、会議が流れることも覚悟していましたから、会場にSPMとFRCの長が現れたときは、「来た来た」と叫びながら草野チーフの部屋に走り出していました。


会議では、まずデータベース・ネットワークの利点やシステムについて、システムエンジニアを交えて勉強会を行い、続いて議論を行いました。会議では、けん制球が飛び交い、会議終了の時間が来ても結論が出ません。そこで、場所を変えて、3機関の長と草野チーフ、小生だけで、さらに議論を続けることになりました。ここで、草野チーフの一撃が決まり(詳細は本人に聞いてください)、3機関でデータ共有のネットワーク立ち上げの合意書を作ることが了承されたのです。昨年7月に、第一回の生物多様性情報データベースのワークショップを開催してから、9ヶ月、まさに9回の裏、サヨナラホームランという感じでした。


これほどまでに議論が長引いた背景には、ITBCが国立大学で連邦政府機関であり、SPMとFRCがサバ州政府機関であること。さらに、この3者がともに、サバ州の生物標本を積極的に収集・保管して、その多様性解明の中心的な役割を担うことを目指している博物館施設であることがあります。


この3機関は合わせて、五百万点を越える標本をすでに収集しており、標本とその情報管理は、データベースの助け無しにはできないことを、彼らはよく分かっています(BBECのPDM上ではデータベース導入は合意ずみです)。また、自分たちが収集した標本データを保全や環境教育に活用するために、ネットワークを構築して、インターネットなどで情報を公開することがグローバルな潮流であることも、BBECでワークショップを開催しなくとも、十分承知しているのです。ITBCとSPM・FRCのライバル意識から生じた感情的な対立が、合意までのプロセスを長引かせた一番大きな原因だったと言えるでしょう(日本でも感情的な対立が、すぐれたプロジェクトを潰してしまうことは普通にありますよね)。


データベース・ネットワークづくりの目的は、今、消滅の危機に瀕しているボルネオ熱帯林の生物多様性を早急に把握し、その保全に役立てることです。しかし、その目標は、3機関が感情的な対立を捨てて、ボルネオの生物多様性保全に貢献できる研究・教育の統合的な体制を構築することにあります。ネットワークづくりのために、緊密に連携をとり合うようになり、さらに、互いにデータを公開し合うことで、共同でインベントリーや調査研究、資源管理を進める基盤ができあがる。情報の交流から人的な交流が生まれ、データベースだけでなく、生物多様性研究そのもののネットワークがサバ州に構築される第一ステップ、あるいはBBECプログラムの横糸の役割を果たすことができればと考えています。


3機関の感情的なしこりがすぐに消えることはないでしょう。実際にネットワークづくりの作業が始まれば、難題が次々と現れてくることは間違いありません。

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