ブラック・マジックが恐い

03/11/05
草野 孝久

9月上旬、セガマ河の民に自然資源の有効利用と保全を働きかける活動がなんとかうまく行きそうだと言っていた矢先のこと。不法伐採が村の近くで起き、どうも村人が関与したのではないかと言うニュースが入り、落胆する坪内さんと野生生物局。

研究教育コンポーネントも2週間後に50ほどが参加する大掛かりな科学調査を準備していたので、にわかにざわめいた。サバ大学の方ではいまさら止められないほど準備は進んでいる。野生生物局は不法伐採発見の報告を担当の森林局に提出。アウトローたちの仕返しが恐い。調査に村人の協力は得れるだろうか?けんけんがくがくの議論は続く。しばらく日本人は近付かないという判断を下す。坪内さんのストレスは溜まる。

官房長に相談した。サバ州警察長官に指示が行き、担当書の警察官が現場に出向き村人の協力と安全の確認を行ってもらう。森林局にも指示が行き、現場査察が入る。サバ大学の先遣隊は、村はのんびりしたものと言う報告を持って戻ってきた。現場のレンジャーからも大丈夫だと言う連絡が入る。それでも、不安は残る。

プラック・マジックが恐い。低地海岸部のマレー人や中国人は、河の民や内陸部の原住民が呪術を使うと言って恐れるのだ。大学では、プラック・マジックにやられ、皮膚を連日かきむしり、全身真っ黒にただれてしまった講師がいるという。フランス人も元気だったものが呪をかけられ病気にされたが、呪術師の祈祷でたちまち治ったのを見たと言う。ああ恐い。「科学者がこれだけ揃ってなんて言う話をしてるの!」とやってきた女性研究所長。「でも、私も知ってるのよ。魔法をかけられた人を…」と声を潜める。野生生物局は、まかないを村人に頼む計画を変更し、局の職員を料理人としてつれていくことを決めた。それでも、日本人は様子を見ることにし、私が2日先に入り安全を確認してから調査団に加わった。

調査は何事もなく進み、村人との友好も深まり、最後には村の小学校の自然絵コンテストや環境教育を行い、さまざまな標本も持ち帰った。
私や坪内さんは野生生物局のレンジャーへルマンと一緒に、マレイシア環境ジャーナリスト賞をとった新聞記者カンさんを案内し、ベースキャンプにしたティドン村からボートで更に2時間かかるダガット村まで行ってきた。カン記者はその後、新聞に写真がたくさん入った3ページぶち抜きの特集でこの地域の自然、特に山地林から川辺林、マングローブ林と続く一連の生態系を守る必要性を紹介してくれた。その1週間後に更に日曜版のタブロイド紙に、セガマ下流域の自然保護や原住民の利用する自然資源保全を訴える記事をまたまた3ページも載せてくれた。

その2週間後、再び村に入った坪内さんは日に焼けひげを生やした顔でうれしそうに帰ってきた。

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