セガマ河下流域ティドン族の村落社会調査に参加して
2003.8
山本純栄(やまもと すみえ)
青年海外協力隊隊員 職種:環境教育
  私は青年海外協力隊隊員としてBBEC野生生物生息域管理コンポーネントの主務機関であるサバ州政府野生生物局に2002年7月から活動しています。同コンポーネントはサバ州東部に位置するタビン、クランバ野生生物保護区とその間のセガマ河下流域を対象として貴重な動植物種を対象とした総合的野生生物生息域管理を確立することにあります。この地域にはオランウータンをはじめ、テングザル、スマトラサイ、ボルネオピグミーゾウ(ボルネオ島のアジアゾウ)、ジャワウシなどの希少動物の重要な生息域となっています。同時に、川の民といわれるティドン族の2つの村があり、約300人ほどの人々の生活の場となっています。彼らの社会と生活を尊重し、同時に、貴重な野生生物生息域を持続的に管理していくため、村の人々の生息域管理への参加は不可欠です。そこで、村の人たちが自然と一体となりどのように生活を営んでいるか、何を求めているかを知るために社会調査を実施することになりました。そして、2003年8月野生生物局の業務としてキナバタンガン河流域でオランウータン保全プロジェクトを実施しているスカウ村の若者たち6人と一緒に社会調査に参加する機会を与えられました。

サバ州内の人々の暮らしは2年間の地域に密着した隊員活動を通じてずいぶんわかっていたつもりでしたが、調査に入った村での生活は私の予想をはるかに超えるものでした。

村人のほとんどは川と海の産物を採って生活をしています。ブブーと呼ばれるラタンで作った仕掛けで採るテナガエビは大きな収入源です。とはいえ、町で暮らす人々の約半分(300リンギット、約9500円)の収入で大家族を支えています。子供が10人以上という家庭も珍しくありませんでした。自分の子供と孫の年齢が同じだったり、自分の子供の数をすぐに答えられないお母さんもいて驚きの連続でした。村人のほとんどは教育を受けていないか、受けていても小学校の途中まででした。

最近、主な現金収入であったテナガエビの漁獲量が明らかに減ってきたことから、将来の生活のため子供たちに教育をうけさせたいという思いはお父さん、お母さんには強いようでした。しかし、ダガット村には道路も、電気も、水道も、学校もありません。パリット村には小学校がありますが、中学校に行くためにはボートで6時間もかかるサンダカンへいくしかありません。交通手段も漁に使っているボートしかなく、学校に行くためには親戚を頼ったり、面倒を見てくれるお姉さんと一緒に移住しなければなりません。

男性は朝早くから漁に出て、女性は家事や育児をしながらブブーを作って家庭を支えます。漁で採ってきた魚介類に庭で作っている野菜やタピオカ、森から取ってきたパキスやカンコンなどの野草と米が主な食事です。電気、ガスはないので川や森で拾った木を薪にして料理します。村のあるところは海水が入ってくる汽水域にあるため、水は雨水が頼りです。マレーシアの人は朝夕、最低2回の水浴びをしますが、家には水浴びのための場所はなく、満天の星空の下で女性はサロンを呼ばれる布を巻いて、ドラム缶にためた雨水を汲んで体を洗います。ほとんどの村の家にはトイレはなく、川がトイレ代わりの生活です。高床式住居なので女性は台所など男性の目に付かないところで用を足したり、体のリズムを調整して夜川へ行って用を足したりしているようです。


このような生活の村の人々にとって自然の変化や災害は家族の命をも奪われかねない大問題です。漁をして暮らす村人にとってカニクイザルはブブーにかかったエビや魚を盗む泥棒であり、群れで村に入ってくるボルネオピグミーゾウやヒゲイノシシは苦労して育てた庭の野菜や果物を根こそぎ食べてしまう乱暴ものです。上流での森林伐採は大量の土砂と流木を河川に流し込み、魚を減少させ、生活のすべてであるボートが流木にぶつかり壊れてしまいます。このようなことは新聞やテレビで見たり、人から聞いたりして知ってはいたのですが、そこに暮らす人たちとともに生活をして初めて彼らの気持ちについて少し解ったような気持ちになりました。


今回の調査中、村の家に泊めてもらい、村人と同じ生活をしなければならず、最初はずいぶん戸惑いました。しかし、自然と野生動物を体全体で感じながらの生活は、自然と人、野生動物と人、そして、人と人とのつながりを実感させてくれた私の隊員活動の中でもっとも貴重な体験となりました。


今回の調査を一緒に行った若者たちの村も10年ほど前まで二つの村とあまり変わらない状況でした。彼らも10年前まで川で漁をして生計を立てる若者たちでした。しかし、村人が主体となるエコツーリズムと保全調査を組み合わせたオランウータン保全プロジェクトを通して、自分達の村に誇りを持ち、村人が行う野生生物保全ということを自分のものとして理解し、行動している彼らに感動しました。自然とともに暮らしている人々にとって脅威が恩恵に換わったときの行動変化の大きさに驚かされました。そして、環境教育とは人を対象にして行い、人の行動が変わると同時に、人の将来も、村の将来、そして野生動物の将来も変わることだということを彼らから改めて学びました。


数年後、BBECの協力でダガット、パリット村にも伝統的な暮らしと野生動物がうまく共存し、発展していける日が訪れることを願っています。

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