コタキナバル映画事情
井口 次郎
コタキナバル市に住んで嬉しいことの一つが、ハリウッド映画、香港映画、インド(ボリウッド)映画などを、製作地での封切りとほとんど同時に観られることです。


市の中心街にGolden Screen Cinemaというマレーシア全国チェーンの映画館があります。この街唯一の映画館ですが、スクリーンが3つあり、上映する映画の回転も速いので、たくさんの映画を見ることができます。ここで、ハリウッド映画、香港映画、マレーシア映画などの最新作がかかっています。現在(2003年2月)、ハリウッド映画としては、「The Ring」や「Shanghai Knights」がかかっています。入場料は二階席が日本円にして250円、一階席が150円。私は、ハリウッド映画も香港映画もインド映画も好きなのですが、これら世界三大映画(?)をすべて一緒に見られる環境というのは、ここマレーシアぐらいではないでしょうか*1。


マレーシアにいるのだからマレーシア映画についても触れるべきなのですが、それほど本数を見ていません。ただ、今まで見たマレーシア映画の多くは冗長で退屈という感想を拭えません。もちろん中には面白いものもあって、首都クアラルンプールの若者達の「青春の蹉跌」を描いた「KL Menjerit」は、演出も洗練されていてなかなか楽しめました。


マレーシアでの映画事情を語る上で、というか東アジアの映画事情を語る上で無視できないのが、VCD(ビデオCD)の普及です。VCDというのは、90年代の半ばくらいから、中国や東南アジアで普及してきました。このため、日本で映画ソフトの媒体として一般的なビデオデッキやビデオテープはこれらの国ではあまり普及していません。VCDが普及したのは海賊版が作りやすいとか、パソコンでみられることなどが要因のようです。ここコタキナバルでも例に漏れず、デパートなどには多くのVCD屋があり、新しい映画のVCDが封切りとほぼ同時に店頭に並びます。たとえば、昨年公開された「スターウオーズ・エピソード2」のVCDは、米国での公開1週間後くらいには、ちかくにオランウータンがいるような田舎町にも出回っていました。ちなみにVCDの再生デッキは、日本円にして6,000円くらいです。


問題とされるのが、市場に出ているVCDソフトの多くが違法にコピーされた海賊版であることです。先日読んだ地方紙「Borneo Post」には、「コタキナバルのショッピングコンプレックスから200万円相当の海賊版商品を押収」という記事が出ていました。著作権法もちゃんと1987年に制定されているそうです。今後も政府は規制を強めていくと書かれていましたが、ずっとそう言い続けながらも海賊版はなくなりません。


なお、VCDの画質はお世辞にもいいとはいえません。 VHSのビデオテープよりも確実に落ちます。VCDの映像記録の仕組みは、MPEG-1というエンコード方式で動画データをかなり圧縮してCD-ROMに保存するというものです。そして、CD-ROMの容量というのは、きれいな動画をそのまま保存するには十分じゃないんです。圧縮の過程で画質が落ちている。具体的には、動きがはげしいシーンや、明暗の差が細かくあるようなシーンになると、絵がモザイク状にぼけてくる。インド映画の群舞シーンなどまさにこれにあてはまるので、VCDの画質がけっこう不満です。VCDよりもはるかに画質のよいDVDソフトも市場に出ていますが、主流はまだまだVCDです。


また、以前「A.I.」のVCDを見る機会があったのですが、これがひどいものでした。なんと、普通の映画館でスクリーンを直にビデオカメラにおさめたというものです。したがって、まわりの観客の笑い声とか咳払いとかの音が入りまくりです。「奥様は魔女」とかの「影の笑い」のようでもありました。おまけに少し斜めから撮っているせいか画面も台形にゆがんでいる。ときどき前の席の客の頭の影さえ見えてしまいます。これには、さすがの私もお話に入り込めず、途中でギブアップ。


しかし、私の知り合いのマレーシアの人々は、こうした映画の画像や音声の問題には、あまり頓着しないようです。彼らにVCDとDVDを比較して見せて、ほらDVDは映像も音も圧倒的に良いだろう?と聞いても。そうかしら?という程度の感想なのでずっこけます。そもそも、彼らの家庭でのVCDによる映画鑑賞とは、じっくり集中して観るというより、家族が集まる居間でなんとなく眺めるという様子です。「オタク的」ではないといいましょうか。個人の趣味のレベルでのこだわりがなければ、品質向上の必要もあまり生じないのでしょう。それで彼らが満足ならば、なんら構わないのかもしれません。このことは、私の本業の技術協力にも関連するような気がします。


*1 タイやインドネシアもそうでしょうか。日本では香港映画は最近不人気で、売れそうな作品(最近では「小林サッカー」など)以外は公開されないようですし、インド映画は言うに及ばず。

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