BBEC
ボルネオの自然
貧困問題と自然保全の関係(その1)

坪内 俊憲  (生息域管理)

ボルネオゾウの子ゾウが仕掛けられたわなにかかってハナや足にロープが絡まってしまうことを以前に報告しました。野生生物局レンジャーは、アブラヤシプランテーションに囲まれたタビン野生生物保護区やキナバタンガン野生生物聖域保護区境界で仕掛けられた野生生物捕獲わなと日々格闘しております。取り除いても、壊しても、犯人を見つけて脅しても一向に減る気配はありません。でも、ティドン族の人たちが住むタビン野生生物保護区北東部では野生動物捕獲用のわなを見つけることはまずありません。

キナバタンガン地区の人口は86,000人、そのうち登録外国人は55,000人と2003年に報告されています。登録外国人のほとんどはアブラヤシプランテーションで働くインドネシア人です。マレーシアではプランテーション事業者に対して労働者に適切な住居と教育サービスを提供することを法律で義務付けています。事実、プランテーションの中には労働者用の住居が多数設置され、かなりの規模の集落が存在しています。集落には日用品を売るお店や簡易レストランまで整備されています。住居には電気が供給され、かなりの規模の学校施設も整備されています。一見、プランテーション事業者は法に基づいてしっかり事業を行い、労働者はそれなりの生活をしているように見えます。プランテーション事業者は労働者の収入は1000リンギット(約3万円)以上であり、生活を十分サポートしていると報告しています。でも、マレーシア人であるティドン族の集落の周辺には野生生物捕獲わなは仕掛けられていないのに、プランテーションと保護区境界には点々とわなが見つかります。これはどういうことなのでしょうか。

プランテーション労働者に現地のNGOが聞き取り調査した結果は表面上の見えること、書類上報告されているものとかなり異なるものでした。住居、電気、学校費用はプランテーション事業者が供給し給料に上乗せして労働賃金として計上、労働賃金は平均一日8リンギット(240円)、厳しくて防護服など無い農薬に曝露される危険な肉体労働、生活のために購入する食料、医療はすべてプランテーション内のプランテーション事業者が経営する商店で購入するしかなく、掛売りで購入して、給料から天引きされて渡されます。そのため、実際に手元にはほとんどお金が残らないとのことでした。食料を自ら調達するため、保護区境界で野生動物捕獲を彼らが試みていることが容易に想像できます。インドネシアでは生活していた森を追い払われ、仕事も見つからないか、見つかっても一日の収入30円程度といわれています。

それが過酷なプランテーション労働に彼らを駆り立てているものと思います。そして、その生活を補完するため、野生動物のわなを保護区周辺に仕掛けたり、農薬を川に流して魚を取ったりしているようです。

ダイビングで有名なシパダン島への中継の町タワオには毎週1500人のインドネシア人を乗せたフェリーが到着します。彼らの多くは労働ビザをもって入ってきていると思われますが、労働許可やパスポートを持たずに入ってくる人も後を絶ちません。

入国を仲介する業者がいて、プランテーション事業者に斡旋していると聞きます。NGOの人たちの聞き取りからも、たくさんの労働許可を持たない外国人がプランテーション労働者の知人、親戚の家を頼って入国し、働いている様子が伺えます。プランテーション事業者は労働力が必要なので、見逃して労働をしてもらっています。

実際の労働者の数は登録者数の5割り増しとも2倍とも言われています。賃金は同じように払うが、統計上彼らは計上されることは無いようなのでプランテーション事業者が支払う労働賃金の一人当たりは増えてしまいます。

先日、持続可能なアブラヤシ円卓会議に出席した帰り、サラワククチン経由でコタキナバルに行く飛行機でインドネシアパスポートを握り締めた16歳ぐらいから40歳ぐらいまでの男女40人ほどの一団と一緒になりました。彼らのほとんどはサンダル履きで飛行機に乗り込み、一心に外を眺めていました。どう見ても彼らが自らの費用で航空券を購入し、旅行をしているとは思えませんでした。そして、飛行機に乗るのは初めてで不安に駆られているようでした。彼らは集団で行動していたので、何らかの斡旋業者がサバ州、あるいはサバを経由してどこかに労働に行くのでしょう。森の資源を自由に使って生活を営んでいた人々が、その資源から排除され、利用が許可された自然資源が枯渇して、低賃金労働者として集団で移動していく姿に私には映りました。そして、不安な彼らの目つきと握り締めたインドネシアのパスポートがいつまでも私の目に焼きついていました。

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