BBEC
ボルネオの自然
貧困と欧米と日本の人々の安くて、便利な生活の関係。

坪内俊憲(生息域管理)

大きな貧困人口を持っていた中国が少し経済が発展すると、すぐに石油、鉄、木材などの資源の価格が上昇したため先進国は経済成長の阻害要因になる問題として取り上げました。中国雲南省のゴム農園の収入が伸びて、生活が豊かになり、家電製品や車が買えるようになったことが報道されています。その報道を見たとき、かつて雲南省で調査をしたとき保護区内に住む数万人の少数民族を思い出しました。肥沃な平地や丘陵地はすべて他の地域から来た華人に占領され、ゴム農園に生まれ変わりました。そして、彼らは保護区の山の中に入り、そこにある自然資源を利用して生活することを余儀なくされていました。年収約5000円、一日20円にも満たない収入では、保護区に残された自然資源を利用して生活するしか方法がないでしょう。

これまでの貧困問題と先進国住民とは全く関係の無いように思われているようです。しかし、貧困問題とアブラヤシプランテーション事業との関係をいろいろ調査していくと、きわめて密接に関係しているのではないかと思うようになりました。

シンガポールで開催された第3回持続可能なヤシ油円卓会議での(株)サラヤの更家社長提案の河岸林保全決議案について報告をしました。その決議案の討議においてヨーロッパの多国籍食品企業、植物油事業者から支持表明は全くありませんでした。自然素材を使い、動物実験をしていないと宣伝して世界で販売している企業の代表からの支援も全くありませんでした。さまざまな商品に使われる素材原料であるアブラヤシは環境と調和するコストが付加されるより、より安価に生産されることが重要であるとの企業の意思表示と思われます。より安価に生産されるためには環境保全コストを負担せず、より多くの、より低賃金労働者が必要であることは間違いありません。そのためにはたくさんの貧困層が低賃金労働者として流入してくることは重要です。

先進国多国籍企業が合法で原材料を調達している限り、先進国政府の管理権限は全くありません。しかし、経済発展の途上にある国々では往々にして法の執行能力が限定されていて、特に、環境保全関連の法律の施行が困難である場合が多いです。先進国からの援助による開発には環境アセスメントなどの適切な法の遵守が求められますが、自国の資金による開発や自国企業による開発には厳格に法を適用することは政策、人材、資金の点で困難が伴います。法の適用をあいまいにして開発された事業で生産されたヤシ油は多国籍企業によって取引され、製品になって先進国、途上国で販売されます。先進国住民も途上国住民もほぼ同じ価格で購入し、企業が世界中から多くの利益を上げています。そして、企業は所属する国に税金を納め、国はその税金で住民への社会福祉サービスなどを行います。食料品など生活必需品は途上国でも先進国でも同じように安価な提供が求められます。

これまで利用してきた土地、自然資源の利用から排除され、経済発展から取り残された貧困層住民も同じような価格で購入し、生活を営みます。そして、彼らにとって利用できる資源が枯渇すると、最も過酷で農薬に曝露される危険があるプランテーションなど過酷な環境下での低賃金労働者となって流れ込みます。その結果、安い植物油が生産され、輸出され、商品となり、そしてプランテーション労働者も同じように石鹸、食用油、チョコレート、マーガリンなどを購入して企業の利益に貢献します。一方、このような安い素材が利用されることで先進国住民は収入に比較して安価な生活必需品を購入でき、安定した生活を享受しています。そして、利益に見合った企業の払う税金で先進国は住民にサービスを提供しています。先進国政府はグローバリゼーションをもてはやし、企業の海外活動を推奨し、利益を上げ、税金を払ってくれる企業を賞賛します。

中国の経済成長に伴って、ますます資源利用から遠ざけられる人々がいます。他方、経済成長の恩恵にあずかって貧困から脱却する人口が少しだけ増えると、資源を争奪する競争相手が増加して、木材、鉄、燃料など自然資源の価格が高騰します。そして、不思議なことに先進国は資源価格の高騰によって経済成長が阻害されると言ってそれを問題視します。貧困撲滅を掲げる国際機関や援助機関はどのようにこの状況を考えているのでしょうか。私は、GDP指標による経済成長だけを前提とした人間社会では地球の生態圏の支えられる限界を超えた経済活動を惹起し、森が消え、生物多様性が減少し、人間の存続そのものを危うくする構造になっているように思います。サバ州で野生生物局の職員とティドン族やカダサン・ドスン族の若者とともに生物多様性保全という人活動を支援しながら、地球の有限生態圏の中で経済を成長(Growth) させるのではなく、発展・進展(Development) していく方法を模索を続けています。

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