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ボルネオの自然
サバ便り番外編 
キナバル登山をされる蘭愛好家のために(登山道で見られる蘭の徹底解説

松永龍児(チーフアドバイザー)

*キナバル登山は、登りやすい山ですが、熱帯特有の天候の変化等もありますので必ずガイドをつけないと登れません。
また、ご自身の十分体調と相談し、ガイドの指示に従って楽しい思い出を作って下さい。
この文章は10回以上の登山道の踏査をふまえて書いてあります。ただし、1月下旬をベースに花については記載してあります。

多くの日本人の方が、キナバル登山をしたけれど、蘭は見なかったとか、名前がわからなかったとおっしゃっているのを耳にしたことが度々ありました。
今回は、これからキナバル登山を計画されている蘭愛好家のために見学のポイントを詳細に解説したいとおもいます。
キナバルの登山道では、いつでも普通に道の両脇に蘭が咲いているのを見ることができます。それもほとんどが、キナバル山でしか見られない固有種です。
登山をされる時期により、花の種類は少しずつ違いますが、この登山道は約1400mの標高差があり、登山口と山の上の環境がかなり違うため、どこかで必ず蘭の花を見ることができます。


写真1:公園入り口

その代表はキナバル固有種のエリア・グランデス(Eria grandis)で、そのほかにもいくつもの種類を見ることができます。
では、登山道でよく見かける蘭と、その見学ポイントを紹介しましょう。
地図を見ていただければわかるように、登山道入り口(1866m)から、ラバンラタの宿泊施設(3272m)まで約6kmの道のりになります。
植物(蘭)を見て写真を撮るためには、0.5kmを30分-40分のペースで登ると丁度良いでしょう。6時間から8時間かければ、充分撮影が可能で、疲れもそれほどでないと思います。(健康な大人の方なら5時間もあれば充分登れます。)
朝、8時に出発して、途中昼食時間を入れても夕方5時ごろには充分に宿泊地のラバンラタ(3,272m)に到着します。
かなり勾配がきつく、急な階段のある場所が多々あり、また霧や雨で道がかなり滑りやすくなっているところが多くあります。どうしても足元を気にしながら登るので植物を見る余裕など全くない方もいると思います。しかし、0.5kmごとに標識があり、その近くには休息のためのあずま屋もあり、迷うことなど全くありませんので、ゆとりを持って時間をかけてゆっくり登ってください。
キナバルは雨が多く、また登山道は雲の中になるので、いつも霧で曇っていて、午前中のほんの少しの時間しか視界の晴れる時がないかもしれません。しかし、安心してください。3000mの地点は雲の上なので、下で雨が降っていても雲の中でも山の上は、視界は良好です。途中、曇っていて蘭を見つけることができなくても、到着した山小屋周辺で少なくとも3-4種類のランを見つけることができます。
また、うまくしたもので、行きに天候が悪いと帰りは必ずといっていいぐらい晴れるので、帰路に期待が膨らみます。

各グループにガイドが必ず1人つきますので、ガイドに自分たちの目的と登る時間をきっちり伝えてペース配分を考えて登ってください。
できれば、自分専用のポーターを雇って、衣類や水などの荷物を持ってもらってカメラだけを手にして登ると楽しい登山になるでしょう。
 森の中は暗く小さな蘭ばかりなので、接写道具とストロボがあれば申し分ありません。今はコンパクトデジカメやカメラ機能付き携帯電話でも綺麗な写真が取れますので、これらでも充分かもしれません。


写真2:ルート図

登山道で、蘭を沢山見ることのできるところは大きく分けて2つのポイントになりますので、それ以外の場所は、カメラをリュックに入れてゆっくり歩いていただいても大丈夫です。
最初のポイントは、1kmから3kmの登山道の両脇です。
まずは、1.5kmあたりまで登って、アーバンあずま屋(Uban shelter)を目指しましょう。
鮮やかなピンクの石楠花ルグサム(Rhododendron rugosum)や黄色の大きい花を咲かす石楠花レティベニウム(Rhododendron retivenium)、オレンジ色の石楠花(R.crassifolium)のすばらしい色彩が目に入ってくるでしょう。
また、白い大きな花をつけるベゴニア(Begonia burbigei)も目にすることができるでしょう。
このあたりは、茶色の長さ5-10cmの小さな袋を持ったウツボカズラのネペンシス・テンタクラータ(Nepenthes tentaculata)も沢山みることができます。
途中でガイドがこの小さなウツボカズラを見つけてくれることでしょう。これらが見られる辺りには、バルボ、セロニステレ、セロジネ、デンドロキラム、エリア、デロチア、トリキスペルムムなどの蘭がみられます。
 最初のポイントの2km辺りに見られるのが、セロジネ・プリカテシマ(Coelogyne.plicatissima)です。サバ固有種で25cmの花茎に3cm程度の茶色い花を5−6つける変わったセロジネです。
 また、幅の広いシンビジュームのような大きな葉に30cmぐらい伸びた花茎に直立した白紫色の1cmの小さな花を20-30つけるエリア・グランデス(Eria grandis)も非常に目立ちます。この種は、キナバル山の2000mから3700mのみに見ることのできるキナバル固有種です。登山道に沿ってこのあたりから山小屋の周辺までいたるところに自生していて、必ずどこかで咲いているので誰でも1度は目にすることができる蘭です。
 同じエリアの仲間で直径1cm高さ20cm程度のバルブに5mm程度の花を沢山つけるエリア・フロリブンダ(Eria floribunda)も見つけることができるかもしれません。
また40cmぐらいのかなり大きな葉をもち、30cmぐらいの花茎に5mm程度の黄茶色の花を沢山つけるエリア・ロブスタ(Eria robusta)を見ることができるかもしれません。


写真3:公園事務所

また、この辺りでは、バルボのアファノブルボン節(Aphanobulbon)の種類が見られます。大きめの葉をつけるのが、バルボ・フラベセンス(B.flabescens)で、20cmぐらい伸びた花茎に黄色い小さな花を20ほどつけます。
20cmの花茎に1cm程度の白いかわいい花を6-10つけるのはバルボ・ソポエタネンセ(B.sopoetanense)です。またキナバル特産種で山頂付近の山小屋あたりで普通に見られる10cm程度の花茎に5mm程度の黄色い花を10程度咲かすバルボ・コリアセウム(B.coriaceum)も見ることができるでしょう。この2つはかなり良く似ていて花が咲いていないと区別ができません。
デンドロビュームのような背の高い50cm以上にもなる葉の上部に2cm程度の薄いピンクの花をつけるボルネオ固有種のデロチア・リギダ(Dilochia rigida)の群落も見つけることができるでしょう。
 また、道の両脇に小さな蘭のデンドロキラムを沢山見つけることができるでしょう。茶色の1cmのかわいい花をつけるのがキナバル固有種のデンドロキラム・グランデフロラム(D.grandiflorum)です。この花は、リップの先が大きく3つに分かれる特徴があるので判ります。デンドロキラムはそのほかにも樹上に黄色の花を咲かすデウインデチアナム、白い1cmぐらいの花を咲かすアルピヌム、黄色の綺麗な花を咲かすカンボラゲンセなどが見られるかもしれません。これらもサバ特産種です。
また、直径1cmに満たない長く竹のように横に伸びる茎に離れてバルブをつけてそこから1cm程度の白いピンクのかわいい花をつけるサバ固有種のエピゲネイウム・トリカロッサム(Epigeneium tricallosum)やエピゲネイウム・キナバルエンシスも林の中に見つけることができるかもしれません。


写真4:Arundina graminifoliaとキナバル山

時期が合えば、15cm程度の花茎に2-3cmの白い綺麗な花を咲かすキナバル固有種のセロニステレ・キナバルエンシス(Chelonistele kinabaluensis)や同じ仲間のもっと大きく30cm以上の花茎に沢山の黄色っぽい花を咲かすサバ固有種のナバルイア・クレメンシ(Nabaluia clemensii)なども見ることができるでしょう。
また、変わった形をした着生種の1cm程度の小さなピンクの花を1つ咲かすキナバル固有種のトリキスペルムム トリアングラレ(Thrixspermum triangulare)が、目の高さの木に着生しているのが、見ることができるでしょう。この種は、山頂近くまで普通にみられるのですが、花の期間が半日と短く蕾ばかりで花が全開しているのを見るのはかなり困難です。
また苔むした大きな樹木には、苔の中に米粒や豆粒ぐらいの大きさのバルブが鎖のようにつながったバルボフィラムのモニリブルブス節の仲間が着生しているのを見ることができます。2kmの近くにあるロウイあずま屋(lowii shelter)の周辺の大木には、1cm程度のかわいい黄色の花の中に真っ赤なリップが特徴のバルボ・カテナリウム(B.catenarium)が、丁度目の高さの辺りに着生しているのを見ることができるでしょう。数百m過ぎたところ樹上には、2cm程度のピンク花を咲かすバルボ・アングリフェルム(B.anguliferum)-ボルネオ固有種を見つけることができるかもしれません。また、黄色の少し大きな縞模様が目立つキナバル固有種のバルボ・モンテンセ(B.montense)もたくさん樹上についているので見ることができるかもしれません。
この種は、5.5km近くのパカあずま屋(Paka shelter)の前の大木の下から5−8m程度のところに着生しているので、目を凝らせて見ていただけば判るかもしれません。
次のポイントは、キナバル登山の醍醐味を味わうことのできる4km−6kmの地点です。
4km辺りのラヤン・ラヤン小屋(Layan-Layan hut-2700m)に到着する頃には、丁度、昼食時間になっていることでしょう。
ここでゆっくり休憩してあと2kmの道のりを頑張って登ってください。
ここからは15-20cmの大きな袋全体が毛におおわれていて、その袋の入り口には鋭い突起が並ぶ大変特徴のあるキナバル特産のウツボカズラーネペンシス・ビロッサ(N.villosa)を、道の両側でたくさん見ることができます。
この小屋を上がった直ぐ右手にエビネの仲間の白い花を見ることができるでしょう。
ツル蘭に良く似たカランセ・トランシエンス(Calanthe transiens)です。
また、この辺りから、鮮やかな雪のような白いセロジネの綺麗な花をたくさん目にすることができるようになるでしょう。
キナバル固有種のセロジネ・パピロサ(Coelogyne papillosa)です。この花も登山道ではいたるところに咲いています。宿泊小屋の辺りの岩場に真っ白になって咲き誇る姿は一見の価値があるでしょう。
また、下でもみられたエリア・グランデスやバルボ・コリアセウムもこの周辺の岩場の道の両脇で見ることができます。
大きな岩場が出てきて視界が開けるとデンドロキラム・スタチヨデス(Dendrochilum stachyodes)が、その大きな一枚岩の隙間に着生しているのを見ることができるでしょう。かつては頂上近くの岩場一面に白黄色の綺麗な花を咲かせていましたが、1983年以降、気候の変動による旱魃の影響でだいぶ減少してしまったようです。
今でも25年前にはじめてみたセロジネ・パピロサとデンドロキラム・スタチヨデスが花の白さを競争するように岩場の隙間に一面に咲きほこり、太陽の光が反射してキナバルの岩場がまるで白いお花畑のよう見えた光景が目に焼きついています。
また、他にもデンドロキラム・グランデフロラムやデンドロキラム・アルピヌム、デンドロキラム・プテロジンもみることができます。
5kmを過ぎた眺望の開けた道の両側には、地生ランのプラタンテラ・キナバルエンシス(Platanthera kinabaluensis)を見つけることができるでしょう。キナバル特産の緑色の花をした変わった蘭です。
このあたりぐらいの標高になると視界も開けてきて、ピンクのルグサム石楠花以外に真っ赤なバクシフォリム石楠花やかわいい小さな赤いエリコイデス石楠花も見ることができるようになるでしょう。
5.5kmを過ぎて山の上が見えるようになったら、大きな木の上を見てください。樹上に、茶色い小さなバルブが固まりになっているデンドロキラムの大株がたくさん目に付くでしょう。ボルネオ特産種のデンドロキラム・アラタム(Dendrochilum alatum)です。運がよければ約5cmの花茎に3mmぐらいのかわいい茶色の花を沢山つけてぶら下がっているのを見ることができるでしょう。
両側に視界が開ける景色のいい道まで来たら山小屋までもう一息です。
はやる気持ちを抑え、じっくりと道路の両側を眺めてください。石楠花や椿の仲間の白い花をさかすシマ・バルチの根元には、純白の花を咲かせたセロジネ・パピロサ、紫の花を咲かせたエリア・グランデス、茶色い花を咲かすデンドロキラム・グランデフロラム、樹上には黄色い花を咲かせたバルボ・コリアセウム、ピンクの蕾のトリキスペルムム トリアングラレが咲いているのを見ることができるでしょう。
皆さんが泊まられる山小屋の周りの樹下や樹上にもこれらの蘭は、咲いていて皆さんの目を楽しませてくれることでしょう。
今回、撮影した標高3000m近くの岩場の写真を見ていただいても3種類のランが見て取れると思います。白い小さな花をさかすレプトスペルムム・レクルブム(Leptospermum recurvum)の樹下にセロジネ・パピロサと花が咲いているエリア・キナバルエンシスが着生しているのが見られます。大きな岩の手前の葉が少し赤くなったのがデンドロキラム・スタチヨデスです。

 さて、皆さんは、何種類のランを見つけることができるでしょうか。
どなたでも数種類のランは目にすることができると思いますので、キナバルに来てキナバルでしか見ることのできない固有のランの華麗な姿を自分の目で見てください。
始めての方が、この登山道で10種以上のランを見つけることができれば、あなたは立派なキナバルのラン専門家です。
蘭を少ししか見つけられなくとも、山々の壮大な景色と青空に響く鳥の鳴き声と石楠花の赤、ピンク、黄色のすばらしい花と小さなかわいい蘭の姿は皆さんの一生の思い出になることでしょう。
ぜひ、登山道で皆さんが新しく見つけられた蘭があれば、お教えください。

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