BBEC
ボルネオの自然
地球塾ダガット村教室で教わったこと Part3

坪内俊憲(生息域管理)

現在、セガマ下流域野生生物保全区に隣接するダガット村でエコツアーを募集しております。これまで試験エコツアーでは自然と共生している村の人たちの生活を体験してもらうことを中心に試行してきました。川で投網やわなを使ったオニテナガエビ漁、ニッパヤシの森の中でのシレナシジミ狩り(森の中なので潮干狩りではありません)、森の野菜取り、蛍観察、ワニの目観察、テングザル観察、オランウータントレイル、果物の苗木の植林、泥んこサッカー、三日月湖観察、ティドン族の歴史教室、伝統生薬教室、ニッパヤシや萱の葉を使った手工芸教室、サロンを使った沐浴法教室などなど、たくさんの活動を作ってきました。全部経験しようとすると最低でも4泊5日ほど必要なほど盛りだくさんになってきました。

中でもオニテナガエビ漁は訪問客にとってその日の夕食を決める重要な活動です。取れないとおいしい取れたてのエビを味わうことができません。オニテナガエビは、台湾から東南アジア方面に主に分布して、長いはさみを入れると1メーターを越える世界最大の淡水えびです。そしてボタンエビの仲間で、エビミソがとてもおいしく、東南アジアでは重要な食材です。残念ながら多くの国で河口域の開発や、河川の汚染でどんどん減っています。尻尾の肉はとても甘く、傷みは早いですが、新鮮であればこれほどおいしいエビはありません。焼いてもよし、煮てもよしです。

昨年、赴任していただいた石原元専門家によって調査してもらい、詳細な報告書を提出していただきました。石原専門家によればタイの有名なトムヤムクンスープはオニテナガエビでなくてはならなかったそうです。タイの汽水湿原に産卵のために移動してきたメスを捕獲して、水田に放流し、しばらくして稲刈りとともにそこで育ったオニテナガエビも収穫していたそうです。そして、尻尾の肉は煮たり、焼いたりして食べて、頭の部分をトムヤムクンスープに入れて、エビミソ味のスープと肉を楽しんでいたそうです。海のエビであるブラックタイガーが入っていると、そのスープはトムヤムクンではないといってレストランに突き返すこともできたそうです。現在、タイでは近年の開発と河口域の汚染などのためオニテナガエビは激減したようです。東南アジア各地にあった熱帯の生産性の高い湿地生態系を利用した稲作とオニテナガエビの複合生産、そしておいしい食事に生態系と共生した伝統生活の知恵を知らされました。

ダガット村だけで年間推定21トン程度、セガマ下流域の3カ村で捕獲するオニテナガエビは年間で50トン〜100トンと見積もられています。年間8回も産卵すると報告されています。熱帯の湿地帯は一定の温度(まさに孵化機の中にいるようです)、午後には降ってくる雨で毎日供給される森から栄養塩、太陽から供給される強い光(私の計測で22万ルックス、日本の1.8倍ぐらい)、ですので、生物の基礎生産は太陽が出ている限り休み無く続きます。そして、汽水域のこれらの生物生産に支えられて、肉食のオニテナガエビも休むまもなく年間8回も次から次へと産卵して数を増やしています。オニテナガエビはエビの中でも特に縄張り意識が強く、近くに来た小さなオニテナガエビを食べてしまいます。ですので、大きなエビは取り除いていくほうが、生産は活発になり、健康で若い固体がたくさん育つ機会に恵まれ個体群の状態も良くなるはずです。年間平均気温−2.6度のモンゴルは一年のうち10ヶ月冷凍庫の中に閉じ込められ、全く生物の生産が無く、すべての動物は春まで生き延びるために死に物狂いで戦います。熱帯生態系の止まる事の無い生物生産は、まだまだ持続可能な人間社会の実現にチャンスがあるかもしれないことを教えてくれます。

ティドンの人たちの唯一の現金収入源であるオニテナガエビ漁は生物生産性が極めて高い熱帯の汽水域生態系の生産する余剰内に十分収まっているようです。気がかりなことは、周辺のアブラヤシプランテーションから流れでる農薬とサンダカンからセガマ河に入ってきてエビトローリング網を引っ張る不届き漁船です。早くサバの人たちに地球と太陽から与えられた高い生産性の優位性を理解してもらい、皆さんと一緒にその生産性を維持していくことを実現していきたいと思います。

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