BBEC
ボルネオの自然
ヘイズ(灰塵)に苦しむ季節

2004.8.16
草野 孝久

(1) どんよりとした日々

 どんよりとした空が続いています。

 いや、どんよりしているのは空ではありません。空気です。

 空気中に灰塵が浮かんでいるのです。ヘイズです。ひどいときには数キロ先の山が見えなくなり、数百m先の建物が薄汚く霞みます。

 このヘイズのせいかどうかは分かりませんが、私は気管支炎を患い10日ほど苦しみました。3日間はベッドに寝たきりでした。家内もいっしょに発熱し、夫婦そろってゴホゴホとやってました。

 家内と私の医師たちによれば、ヘイズの季節は細菌性の風邪、喉頭炎、気管支炎が蔓延するのだとか。ヘイズで太陽光線のとおりが悪くなり気温が下がり風邪を引き、乾期で疲れたからだに灰塵が入り病気になるということらしいです。

(2) ヘイズの起きる訳

 毎年、乾期の後半に入るとヘイズの季節になります。

 ヘイズはインドネシアからやって来ると言われています。1997年のエルニーニョの年は大乾期で、スマトラ島を中心にインドネシアの山火事が広がり、その灰塵が風に乗り流れ、マレーシアやシンガポールの空を数ヶ月にわたって覆ったことがありました。あのときには、灰塵の吸引や気温の低下で多くの病人が出たことが報道されています。

 誰がヘイズを引き起こしたのかが大きな議論になりました。山火事の原因は、スマトラ島では地下深い石炭が常に燃えていて、乾期になり雨が降らない日々が何ヶ月も続くとその熱が地上に達し山火事を起こす、消しても消しても火がついてしまうのだという説明がひとつ出てきました。しかし、石炭層が燃えていない地域でも大規模の山火事が起きました。エルニーニョでない年でも、石炭層が高温に達していることが報じられていない年でも、乾期になるとヘイズはマレーシアの空を覆います。

 人為的な山火事が多いからです。山火事は焼き畑など村落住民の活動によって引き起こされるとするインドネシア政府の説明に対し、国際NGOはプランテーションの造成や伐採のために火を放つ方法がヘイズを産んでいると反論しました。その後の衛生情報を分析した調査では、これらが混在して乾期の後期になると灰塵が蓄積されヘイズになると分析されています。大規模の山火事が起きてなくてもヘイズが起きる理由は、プランテーション造成や伐採のために森林を焼いたり、乾燥した農業残渣物を燃やしたりする作業が各地で集中するため、そして焼き畑で森を燃やす作業も、奥地へ奥地へと新天地を求める貧困層により森が焼かれることなどが集中し、舞い上がった灰煙がまとまってヘイズになると考えられます。

 JICAが数年前までインドネシアに技術協力した森林火災プロジェクトhttp://www.fire.uni-freiburg.de/iffn/country/id/id_5.htmで作成したホットスポット(進行中の森林火災)情報ウェブサイトhttp://www.fire.uni-freiburg.de/se_asia/projects/jica.htmlでは、日替わりで燃えている地域を地図上で見ることができます。

 サバ州へのヘイズは主にボルネオ島のインドネシア側カリマンタン4州での焼き畑やプランテーションの開墾作業のためだと言われています。サバではインドネシア側ほど大規模な不法な伐採や開墾がなく、そのための森焼きも規模が小さいからです。が、サバ州内でも小規模ですが焼き畑もありますし、プランテーションの残渣消却作業はこの時期に集中していると言われます。州政府は野焼き(open burning)を禁じる通達を連日出していますが、時折山の中から煙が上がっているのを見ることがあります。

(3) プランテーション農業と自然環境

 州経済の3分の2以上をプランテーション農業に頼るサバ州にとって、農地拡大は止められないことかも知れませんが、森林保全区や多様な自然生態系を残して、自然の復元力、再生力を確保しておかないと将来の社会経済のあり方に禍根を残すことになります。プランテーション農業で得られる収益の分配も問題です。プランテーションはほとんど半島部の資本による経営だからです。プランテーションの労働力は、サバの原住民ではなく、インドネシアやフィリピンからの安い出稼ぎ労働者たちです。ほとんどが不法滞在者だとも言われます。他国の貧困問題の緩和に協力し、自国民の貧困層増加や労働力の育成という課題に目をつむる結果となっています。

 国や州の経済が潤っても貧困層を生み、あるいは州の自然資源と言う財産が州外にどんどん持ち出されて将来の社会経済運営が危うくならないように、州政府は富の分配を考えて舵を取る必要があります。

 最近マレーシアのプランテーション業界も、これ以上環境保護派から突き上げられていたのではマーケッティングに差し支えると考えるようになったのか、環境に配慮したプランテーション開発・運営を唱えるようになってきました。7月にはサバ州のサンダカン市で、アブラヤシ生産と自然環境の調和をテーマにしたシンポジウムを自ら開いています。「プランテーションのなかは生物多様性が高いのだ」などとトンチンカンな発表をして、BBECの仲間からやり込められたマネージャーもおったようですが、こうした動きは業界が私たちの土俵に上がってきた(生物多様性の保全を考えるようになった)こととして歓迎し、更に彼らに適正な情報を提供していく活動を増やすようにしていきたいと思います。

(4) ヘイズと観光

 マレーシア半島部では、ヘイズの到来を報じマ政府がインドネシア側の対策を求めた新聞記事も出ていますが、サバの新聞には報じられません。これは、せっかく大成長期を迎えている観光産業に水を差したくないからだろうと説明する人もいます。日本、韓国、中国、オーストラリアなどからの直行便が増え、臨時増発便まで繰り出して、連日数千人がサバ州にやってきます。今年は8月までで、昨年一年間の観光客数をすでに超しているとの見方さえあります。ホテルはどこも超満員です。この盛況ぶりは、テロやSARS、鳥インフルエンザの危険の無いサバが、これまでの主要な観光地への客足を獲得したのだと理解されます。

 町は活況で沸いていますが、宿泊施設の整備が間に合わなかったり、観光地が混雑しすぎたり、サービスが不備だったり、ガイドなどの人材育成が間に合ってなかったりと、いろんな課題も出ています。州政府は州の第二の産業になりつつある観光をここで大開発したい考えです。しかし、特に史跡や近代産業により作られた観光施設がある訳でもないので、サバ州の売り物は「自然」でしかありません。ですから、自然を観光資源と理解して、保全と観光開発の調和がとれた行政が行われるようにアドバイスしていかなければなりません。

 これからは、観光業界に対する環境啓発活動も増やしていかなければならないと考えています。ともかく、ヘイズは観光業界にとっても大きな問題です。

(5) 雨期の方がさわやかなボルネオ

 去年に比べるとヘイズの濃度はまだたいしたことないです。去年は1km先の島影が見えなくなりましたから。

 早くモンスーンの季節が来てほしい。

 サバ州は雨期の方がずっとさわやかです。

 今は果物の王様ドリアンの季節でもあります。ドリアンを食べ過ぎると身体がほてり、熱病にかかりやすくなるのだと言う人もいます。大好きなドリアンもしばらく控えておくことにします。

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